企業経営と資金繰り | 都の西北 / 山梨 / 甲府 / 愛宕山からチトフナ(世田谷)に!

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2004年12月に山梨県に移住,15年を過ごした後に
2020年3月に世田谷に引っ越しました!

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会社トップの最優先業務は資金繰り

今日(1/19)の日経新聞朝刊からです.

 毎週日曜日の特集 日曜に考える  『半導体興亡史』 からです.
  苦闘11年 マネー敗戦  エルピーダ坂本社長の奔走
    巨額投資のカベ高く

 エルピーダメモリの苦闘は坂本社長の新刊
  不本意な敗戦 / エルピーダの戦い(坂本幸雄著 / 日本経済新聞出版社)
   に種々述べられています.興味深いので是非読んで下さい!

大手企業に勤めているとまったくしなくてよい苦行があります.
それが資金繰りです.中小企業はこの資金繰りに莫大な時間を割かれると共に
これが大きなストレスとしてのしかかります.
中小企業のオーナーが自殺する原因も資金繰りのショートである場合が
少なくありません.それほど大変な仕事だと思います.

ただ,その苦難を大手で唯一背負わされるのが
独立系大手と言われる会社で,エルピーダメモリも日立,NEC,三菱から
資金援助を断られた瞬間からその独立系になるわけです.
社長を頼むときは三顧の礼,あとは資金援助しないと行ったところは
さすが大手のオーナー社長といった印象を紙面上から読み取れますね!

一般大手企業,例えば三菱系列の子会社である場合,
親会社なるモノが存在し,出資を承認すると子会社に大きなお金が準備されます.
要は子会社は親会社に資金繰りのかなりの部分を助けられているのです.
実はこれ以外に更に大きなモノとして 親会社からの『信用』が教授されます.
これは無形なモノで多くの人が意識できていないのですが,
莫大なというか,とてつもなく大きな無形資産と言えます.

会社の信用がないと買掛金なるモノを業者さんが認めてくれないので
現金による購入を強制されます.要は小売りと一緒と言うことです.
これは一般の人が感じられる生やさしいモノではありません.
金額の桁が全然違うからです.
 → 一つの請求書がウン億,ウン千万,桁が四つくらい違います!

実際の商売の場では,お客さんへの売買取引は手形の早くて三ヶ月落ち,
遅いモノは半年以上待たされてようやくお金が入ってきます.
これは,モノの調達を現金払いをしたら,
その代金が三ヶ月後,半年後にしか回収されないと言うことで,
この間の費用は持ちだし,手元資金がない場合は借金しなければなりません.
当然その借金には金利が発生するので,その借入期間が長ければ長いほど,
銀行にたくさんの金利を支払わなければならず,
会社の運営資金はかなり余裕がなければ回らないことになります.
ビジネス規模が大きくなると,その金額は更に大きなモノになります.
エルピーダレベルであれば,設備導入を除いても100億円は
余裕に超えるモノと予想します.

エルピーダの場合,『エルピーダが破綻するらしいぞ?』と噂が流れると
材料メーカーから『現金と引き替えでないと部材を納入しない』と通告され,
全てを現金収支にしなければならないピンチにさらされるのです.
併せて,社員の給与も基本は現金決済,三ヶ月後の手形と行かないのが社員の
給与とボーナスなので,一端信用に不信感をもたれるとたちまち資金繰りが
難しくなるわけです.

ここでエルピーダは新生銀行から金利10%と言うとんでもなく高い利率で
80億円の借り入れを断行,危機は乗り越えるのですが,
次に来たのが借入金の継続融資条件として突きつけられたパートナー探し,
不幸は重なるモノで最有力候補のマイクロンテクノロジーの社長である
アップルトン氏が飛行機事故でなくなり,交渉は頓挫します.
 (アップルトン氏の事故死がなければエルピーダは破綻しなかったかも?)
パートナー探しは結局頓挫,時間切れで坂本氏は会社更生法の申請に至り
銀行との関係は更に悪化をたどることになりました.

この判断の善し悪しはエルピーダ側,銀行側で意見が分かれるところですが
社員を解雇せずに現在に至っていることを考えると,
産革新が入って人を切りまくっているルネサスとの対比から
良かったように思えます.それはそれで大変だとは思いますが,
雇用が繋げる意味は非常に大きいわけです.

エルピーダ坂本氏が社長であった期間は11年,
この間調達した資金は1兆4,000億円,凄い金額と言えるでしょうが
比較論で考えると微々たる金額になってしまうのが半導体事業です.
競合と言えるかどうか分かりませんが,勝ち組の Intel,TSMC,SAMSUNG は
この十倍の資金で事業運営しています.
この資金力の差が財務指標に現れ,今の日の丸半導体の撃沈に繋がるわけです.

事業運営において,社長の仕事はまずは資金繰りから,
これが最も顕著に現れるのが昨今の半導体事業です.
これは1990年代半ば以降の大きな変わり目であったと
日経新聞で回想しています.まったくその通りでしょう!

大手に勤めると,自身の給与明細の内容にすら無頓着な人が多いのですが,
それだけ恵まれていることをほとんどの方は会社を辞めるまで気づきません.
会社運営の資金繰りはそれほど大変且つ重要なことで,
倒産する起業家のほとんどがこの資金繰りで躓きます.
技術レベルやビジネスモデルで躓く場合もありますが,
まずは資金繰り,この大変さを教えてくれたのが
エルピーダの破綻ではなかったかと再認識できた特集記事でした.