技術者の目利きは概ね当たらない? | 都の西北 / 山梨 / 甲府 / 愛宕山からチトフナ(世田谷)に!

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2004年12月に山梨県に移住,15年を過ごした後に
2020年3月に世田谷に引っ越しました!

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技術者の目利きは概ね当たらない?

第3四半期の決算が出てくる昨今,
これまで業績が好調だった企業の苦戦が伝えられています.

特に新聞紙面を賑わせているのがアップル,
注目度が高すぎるが故に,現状維持レベルだと株価が下がる?
このデフレ時代に利益が出て,それを維持できるだけでも凄いことだと思うのですが,
世界一の企業(1/25日経夕刊では既に首位陥落)は常に伸び続けなければならないようで,
世界一には世界一の悩みがあるようです.

時価総額の減り方が昨年9月対比で24兆円
約4割減少したとのことですが,
逆にこれまでが上がりすぎていただけのように思います.
 それでも時価総額は37兆6000億円だそうです.

目を国内に向けて日本企業の話,
昨今で特に印象的なのは1/25の日経新聞朝刊

日本電産,1転9割減益
 今期,主力のHDD部品不振  生産能力3割削減

1/26の日経新聞からも
 ファナック経常益19%減
  iPhone 減速,関連企業に影響(今期)
   加工用工作機器の販売鈍化  → それでも多額の黒字であることは立派!

時代の流れに乗り損なっている(と言うか,既に過去の技術である) PC,
このITの潮流を変えた牽引役で有るスマホもアップルが示すように減速しており,
その主導権は恒久的とは言えないわけです.
 (スマホの次に何が来るか,もはや誰にも予想は出来ないように感じています)
つまり技術の流れはそれほど速く,激しいと言う事ですが,
この流れは技術そのものと言うことではなく,
それを用いたビジネスの流れと考えるべきだと思います.
もっと言うと,市場の選択と言えるでしょう!

話を戻して,
3月期の純利益が見込みの500億円から45億円に大幅減益の日本電産,
HDD用のモーター生産能力を3割削減するそうです.
成長路線が岐路に来たことを示しています.

 小生が尊敬する永守社長曰く,
  『パソコンの縮小が2年早く来た』

話は変わり,ちょっと昔の事になりますが
このHDDに関わる更なる新規技術展開がまじめに考えられていた時期がありました.
磁気記録に熱を利用するという試みです.
当時のHDDは記憶媒体としては不動の位置にあり,
この記憶容量を如何にして上げるか,ビット単価を如何にして下げるか,
毎年のようにSEATEC(幕張開催の電気製品の国際見本市) で
取り上げられていたわけですが,今や誰も議論しなくなったというか,
もはや過去の話になっています(涙).

その当時,記憶媒体としてSSD(フラッシュメモリーを媒体とした記憶素子)がありました.
まだ製品化適用初期にあったわけで,今のように当たり前の技術として
市場参入が出来ていなかったので(と言うか,価格が高すぎた),
SSD と HDDで,どのようにエンド製品が切り分けられるかをまじめに議論されていました.
要は HDD が本当に当時の競争優位を維持できるかが議論の中心だったのです.

 当時はビットエラー率についても,HDD の成熟した技術トレンドは
  SSD に勝ると判断,でも技術なんて直ぐに進歩することを冷静に加味できなかった,
  有る面,技術者は自身が関わる技術を過信する傾向に有ったわけです.

その時の議論には当然,スマートフォンの存在は加味されておらず,
PC,サーバーなどの既存製品で HDD vs. SSD の構図を検討していただけ,
HDDは価格面で優位(ビット単科がSSD の 1/00)であることから
継続してビジネスでの優位性を保つ可能性が高いと推察されていました.
 → 素人(特にビジネスに対して)の朝知恵だったと言う事でしょうか?
→ これに対して文系の経営者は賛同しなかったことを記憶しています.
    つまり,今考えると正しい見解を出していたと言うことです!

振り返って現在,スマートフォンではHDDが介入する余地がまったくありません.
携帯性,サイズ,電力消費効率,振動に対する信頼性,スピード,
どれをとってもHDDを記憶媒体として採用する可能性はゼロに等しく,
もはや携帯端末の記憶媒体の勝敗はSSDとなりました.

 PCの領域にも SSD はかなり食いこんできていることも周知です.
 駆動系に機械的なモーターが存在しない事によるメリットは絶大で,
 先々を考えると,HDDはデジカメによって無くなった銀塩カメラと同じ末路をたどる?
 経営学的にはそのように予想する方が正しいと思います.

日本電産の苦戦はこのような技術の流れに沿った背景から来るモノで
百戦錬磨の永守社長でもこれを事前に予想することは困難だったと言えるでしょう.

さて,前述した HDD 関連の新技術でのビジネスですが,
結局は大きく進まなかった訳で,そのことは(結果的に),
大きなお金を使わずに正解だったとの評価に繋がります.
これは現状を予想してではなく,当時でもビジネスとして採算が取れなかったからです.

当初の大きな問題は,市場投入計画が遅れに遅れたこと,
これは顧客の先にあるエンドユーザーの動向が大きく影響,
更にその顧客の顧客は市場動向(つまり製品化)が景気や既存技術との関係で
予想通りに行かなかったことがあげられます.
 → 市場は最先端技術には興味がない場合がほとんどで,
    既存技術との置き換えで優位性(安いが常)があるか,そんなものです!

開発初期の商談(売り上げ)は,その維持費が余りにも大きく
技術担当者とその会社全体の考え方に違いを痛切に感じるものです.
つまり,技術担当者は技術の視点のみからの考察しかしておらず,
ビジネスの視点からの考察に欠けていたわけです.
 → 費用の計算が甘いと言う事でしょう.

  結果として会社から開発費を取ることが出来なかった?

 このとき特に問題となったのは現状生産設備の維持費でした.
  (特に人件費,加えて開発費等の間接費,直接費は極力使わないのが賢明)
 さらに,新規投資が必要となります.投資なんて出来ない....
  → 費用は回収することが大前提です...

昨今の半導体企業がビジネスから撤退していく背景もまさにこの構図,
技術があるから商売になった時代とは明らかに違ってきており,
技術優位でのビジネスモデルだけではもはや通用しないように思えます.
技術に何かを加えなければ....
(例えば,営業力,優れていない技術でも勝てる場合は少なくない?)

ビジネスの浮き沈み,簡単に予想は当たりません.
日本電産ですらこうなのですから...

実は今更なんですが, BLU RAY のコンテンツを年末に初めて購入しました.
つまり我が家は典型的な一般大衆以下と言うことで,
普及理論における『アーリーマジョリティー』以降な訳です.
 → 日経新聞 1/22の経営書を読むに恩師,根来先生の解説が載っていました.
   ちょっと利用させて頂くと...
    
Geoffrey A. Moore 名著
Crossing the Chasm:
Marketing and Selling High-Tech Products to Mainstream Customers
「深淵を越えて: 主流顧客を対象としたハイテク製品の市場調査と販売」

購買層を正規分布的にいくつかに分けると
おもしろい傾向が出てくることをムーアは指摘しています.
ハイテクオタクであるイノベーター(テクノロジーオタク)は
新たなテクノロジーを最初に受け入れる集合体 で
技術者はこの集合体と言えます.つまり,技術者は典型的なオタクと言うことです.
オタクに市場での普及を引っ張る抜く力は無いと言う事でしょう?

次の集合体はアーリー・アドプター(ビジョナリー)
他者に先んじて新技術に投資,支持する集合体 ですが,
これも普及水準としては少数派,ここで製品化が汎用化されることはありません.

製品が普及するか否かの鍵はアーリーマジョリティーが握っていると言われています.
彼らは実利主義者であり,新技術普及の鍵を握る集合体 なのです.

ムーアは技術のライフサイクルにおいて,
各層の間に溝(キャズム)が存在すると指摘しています.
特に アーリー・アドプターとアーリーマジョリティーの間にある
キャズム(溝)を乗り越えることがビジネスを成功させる上で非常に重要であるとの
『キャズム理論』は高い説得力があると言われています.

またまた小生の話になりますが,
ここに来てようやく BLU RAY を購入したと我が家のことを考えるに,
(世間的にどの程度遅れているかは定かではありませんが)
新技術の導入は技術者が考えるほど早く進まないと言うことです.

結論として,
技術者の目利きは概ねあたらない,
昨今のビジネスの成功が如何に難しいか,
このような背景にあるのではないかと推察する次第です.