移植胚の個数制限 | 不妊治療クリニック院長の福田愛作のブログ

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大阪府東大阪市にあるIVF大阪クリニックは不妊治療専門クリニックです。「心と身体を癒す医療」をテーマとしています。

 日本では移植胚の個数は”原則1個とする”が10年以上前から続いています。

 原則1個ですから2個以上移植してもいいのですが、日本人はこういったルールというものに弱いのです。

 ですから、年齢が少々高くても、やはり最初の数回は1個しか入れられない、という呪縛に縛られます。

 

 赤信号であれば、何十メートルも車が無くても、道路を渡れないのです。

 これを見た外国人が「日本人は、自分で物事を決められない人種だ」と言ったことがあります。

 人の目を気にすることもあると思いますが、危険を回避するための信号機ですから、危険が無ければ渡ってもいいのではないでしょうか。

 それと同じことが、45歳の女性に最初から2個の胚を移植することが出来ないのと同じ事だと、私は考えています。(この答えは、最後に出てきます)

 

 日本の体外受精の成績は、実は世界で最低クラスなのです。

 皆さん驚かれると思いますが、採卵当たりの平均出産率は5%以下です。

 2021年の日本産科婦人科学会統計で実際の数字は3.9%です。これは全年齢の平均値です。

 こう言うと、必ず返ってくる返事は「日本は高齢の患者数が多いから仕方ないんじゃない」という返事です。

 確かに、日本の患者年齢層を見ると、40歳以上が40%以上を占めます。海外では40歳以上の患者層は20-25%ぐらいです。確かに日本では高齢の患者数が多いのは間違いありません。

 しかしです。患者年齢層を合わせても、日本は他の国よりも妊娠出産率ははるかに低いのです。

 

 採卵当たりの妊娠出産率がこんなにも低い理由は、私は移植胚数の1個制限だと考えています。海外では、女性患者の年齢に合わせて移植胚の個数を決めています。

 40代であれば、最初から2個でもOKです。更に年齢が上がれば、3個、4個と増えて行きます。

 

 極端な話では、日本では45歳の採卵当たりの出産率は1%です。それでも初回胚移植の数は原則1個なのです。

 これっておかしくないですか?2個移植しても双子率は1万分の1です。

 3個移植したとしても三つ子率は100万分の1です。これでも最初から3個移植してはいけないのでしょうか。

 3個移植すれば妊娠率は1%から3%に、3倍もアップします。3%なら患者様もちょっとは可能性を感じるのではないでしょうか。100万分の1の三つ子を心配する必要があるのでしょうか。

 

 このように、日本では何十年ものあいだ”原則1個”が念仏のように唱えられています。

 

 と言うと海外では「バカみたいにたくさん移植しているのでは?」という質問が必ず返ってきます。

 そのようなことはありません。その証拠にアメリカでも多胎の妊娠率は決して高くないのです。

 また着床前検査をした胚は、1個しか入れてはいけない、と厳しく決められています。

 アメリカなどは3-4年毎に胚移植に使える胚の数を決め直しています。

 

 日本は何十年にもわたり、女性年齢に関係なく”原則1個”を科学的根拠なく続けているのです。

 日本産科婦人科学会が、多胎の妊娠率がいかに少ないかを自慢するためだけしか意味はないと思います。

 

 やはり、どれだけ多くの患者様が妊娠出産できるか、そしていかに早く妊娠できるか、が最も大切だと思います。

 更に言えば、不妊治療が始まったころは、双子までは仕方がない、という方向で治療をしていたのですから。

 双子を避けることより、私は患者様に妊娠してもらうことを優先したいと思っています。

 

 産科(周産期)を担当する医師からは叱られそうですが。すみません。

 

 私は、不妊治療を受けておられる患者様に何としても妊娠していただきたいと考えていますから。

 もちろん、科学的に多胎妊娠のリスクを考えての話です。妊娠する可能性の高い方に胚盤胞を2個、3個と移植するようなことはありません。その点はご承知ください。