long island sound -9ページ目

「翼」


3.02 工事


久し振りの開戦宣言だ。


先日日本語能力試験の合否結果通知書が郵便受けに届いてきた。満点が400で俺の総合点が369だった。2005年の5月に受けた時から腕が少し上がったようだ。誇りに思う。結果が分かった時、親父にメールを出した。結果のことと、これからどうするつもりだということを彼に説明してみた。


「日本の大学に入る。」去年トニー先輩がそう勧めてくれた時点から、それが俺の夢となった。だがその為には多くの時間と精力を捧げねばならない。入学自体は可能だとしても、俺は来年の4月に一年生からやり直すことになる。つまり19歳の一年生になり、2011年に23歳で卒業するということだ。金銭的にしても時間的にしても、就職する為の手段に過ぎない大学にしては犠牲が多すぎる。親父はそう言うし、俺も同感だ。


しかし、俺は自分の可能性を信じることにした。


夜が明けたら、俺は日本留学試験の願書を送りに行ってくる。6月18日、俺の将来があの日に懸かっている。今日からの3ヶ月、もしその間に俺は自分の限界を乗り越え、新しい夢を生み出すことができれば、この国に残ってもいいと思う。ただし、このままくだらないことに動揺されるような、努力を惜しむような弱い心に囚われ続け、試験の出来栄えが期待に添えなければ、俺は直ちにこの国を去り、できれば二度と戻らない。俺は自分の才能を発揮させる為に日本に来たのだが、もしそれができずにいるのであればここにいても無駄だ。アメリカに帰り、親父の言う通りに就職先を探す。


そういう覚悟で、本日より受験勉強を開始する。


平成18年3月4日土曜日、午前3:04、作戦開始。

未読


3.03 負けるな


先週の金曜日から携帯が文字通りの時計代わりになっていた。電話もメールも使えないし、万が一誰かが(誰だか知らないが)俺に電話しようと思っても繋がらない。


「お客様の都合により・・・。」そういう具合だ。


ポストの中にドコモからの請求書があったら数秒眺めては捨てた。「料金お支払いのお願い」…最初の何通かはその意味が理解できなかった。表にはいつも「重要」と「親展」という言葉が赤い文字で書いてあったが、その解釈にはいつも混乱した。まるで俺から何かを求めているようだったが、この俺には一体何ができるというのだろう。数週間にわたってそのハガキがごみ箱の底に溜まってきたが、俺にとって彼らの訴えはただの弱々しい提案にしか解釈できなかった。「お客様、払ったらいかがでしょうか?」、と。そして夜遅く、本から目を離して音楽を停止して、静まり返った部屋の中で耳を済ませたら彼らの無力な声が微かに聞こえた。しかしどんなに訴えかけられても俺の答えには変わりはなかった。「いや、今はいい。ありがとう。」


利用停止のお知らせが送られてきた時はもう既にハガキの封を切らずに捨てることにしていたから、夕方友達に電話しようとするまでは携帯が使えなくなったとは気付いていなかった。「東京駅付近で電波が三本並んでいるのに、なんで接続できないだろう?」


「…あっ、あれか?」


俺はそういう雑用を片付けるのは苦手な方なのだ。午前X時から午後Y時までZの持参の上、なんて俺には無理だ。実は秘書を雇うべきなのかもしれない。ドコモの料金を払ったり、洗濯物を干し場から取ってきたり、ツタヤで借りたDVDを返却したりするマイ・セクレタリーだ。


でもそこでもう一つの問題が浮かび上がるのだ。どんな優れたマイ・セクレタリーだとしても、タダで働くはずがない。つまり俺はその人の給料を定期的に払わなければならないということになる。勘の鋭い読者なら(管理画面の表示する情報によると、本ブログには一日20人ぐらいの訪問者がいるらしい。時に30人を突破するあの数は、俺を酷く混乱させる。何のつもりで見に来ているかはさっぱり分からないからだ。それについて考えると頭痛がする。俺を笑うためか?意味不明の片言の日本語を読むのが好きなのか?)予測はもうできているかもしれない。


なに、その問題は至極簡単さ―もう一人、マイ・セクレタリーの給与を払う役目を委ねられた秘書を雇えば済むことじゃない、とあなたは言うかもしれない。下手糞な日本語を読みたがる人にしては実に名案である。


「でもやっぱ駄目だ」と俺が言う。

「私が聞いていた限りでは、それでは全ての問題が解決されるのでは?」とあなたが言う。

「そうかもな…」でも俺の意識はもうそこにはないのだ。目が何か遠くにあるものを眺めているように、ぼんやりとあなたの頭の数センチぐらい上の空中に集中している。

「ね、ウィスキー飲まない?」

「いいね」

俺が微笑んで立ち上がり、本棚からジャック・ダニエルのオルド・タイム・ウィスキーとプラスチックのカップを二つ持ってパソコンのそばに置く。「ちょっと待って、氷を持ってくるから」


俺が部屋から出て娯楽室にある冷蔵庫から氷を取りに行っている間、あなたは部屋を見渡す。小汚い部屋だ。ドアのそばにごみが溜まっていて、窓際には色褪せたタオルと古雑誌が時間の流れに取り残されたように太陽の光を浴びて静かに眠っている。窓は少しばかり開いていて、近くの商店街から往き来している人の愉快なざわめきが聞こえる。窓に寄って外を眺める。素晴らしい天気だ。


「おう、ただいま」

「お帰り」とあなたが言う。「ねえ、大丈夫?こんなに朝早くお酒を飲んじゃって」

「なに、大丈夫だよ。久し振りのお客だから、少し盛り上がらないと」 それぞれのカップにウィスキーを注いでから、俺たちは乾杯する。

lurker


3.01 ピアノ


ストーカー行為って、微妙だよ。大体ストーカーと、単なる好奇心が強い人や暇を持て余している人とはどう違うのか?区別がつかないじゃん!


時にはこの私だって、ストーカー行為と呼べるようなことをするぞ。



…はは、危ないな。説明なしにこのまま更新すればどう思われるだろう?ぞっとする。


いや、別にOLたちに付き纏ったり、真夜中に変な電話をしたりはしないよ?俺が話しているストーカー行為というのは、インターネットでのものさ。何ヶ月も更新されていないくせに毎日友人のブログをチェックしたり、殆ど知らない人のHPを訪ねたりするということだ。


自己弁護のつもりじゃないけど、前者の方は更新を期待しているからだ。後者は俺の昔からの悪い癖で、そんな癖によって周りの人に色々な迷惑をかけていたことが分かったら一時はやめたが、最近は一人の人のブログがちょっと気になってまたやり始めた。今のような隔離された状態だと、時にやっても害のない罪だ。少なくとも自分にそう言い聞かせているのだ。


その人は俺の同級生で、今年彼女も留学で日本に来ている。正直言って最初は彼女が不慣れな環境でもがく姿を見たくて読んでいたのだ。そんな残酷な思いで始めた訳だが、時が経つにつれて俺が少しは柔らかくなってきたこともあって、彼女に同情し始めた。


実は俺たちの間には共通点が多いみたいだ。言語を勉強する人は結構良く挫折してしまうんだものね。その他にも幾つかがあって、(例えばしょっちゅうブログで愚痴を零してしまうところ)彼女のブログを読んでいると、「ああ、その気持ち分かるな~」と思うことが多い。


多分、アメリカで日本語を勉強している学生は留学に行くのが早すぎると思う。殆どの人は3年生になってから行くのだけど、二年間の勉強だけでは日本語能力が不足しているのではと思う。何しろ日本に滞在する時間が限られているから、この国にしかできないことを沢山するべきだと思うが、残念ながら大半の留学生は日本に来てから始めて本格的な漢字学習に入るのだ、或いは漢字をろくに取り組まない駄目な授業に行かせられるのだ。


最近彼女も自分の授業に疑問を抱いているようだ。ああ、コメントが書ければなと思う。授業なんて、本当の学習の邪魔だけだ。彼女は真面目な学生だから俺みたいにサボる訳にはいかないかもしれないけど、毎日授業に通っていれば日本語が上手になれるなんて思わないで欲しい。


まあ、でも俺がそう偉そうに言う筋合いがどこにもないけどな。留学で一番失敗しているのはこの俺なんだし。

You kiddin' me? I wrote the 論文 on it!


3.01 赤信号


勉強中一つの考えが頭を横切り、本を机の脇へ押した。特に面白い考えだとは思えないが、なにせそろそろブログを書こうかと思っていたところだ。


第二目のホストファミリーのオトウサンはよく日本の悪口をしていたのだ。政治の堕落だの島国根性と異国に対するゼノフォビアだの、若者の学力低下の傾向だの、食卓越しに話し合った時はいつもそんな話ばかりだった。食べながらよくテレビを見ていたが、これも火に油で、ニュースで何かのスキャンダルが報道されたりクイズ番組で芸能人が簡単な漢字の読み方を間違えたりしてはまた同じ聞き飽きた話を繰り返した。「日本の政治家は駄目だねぇ」とか、「日本人として恥ずかしい」とか、「アメリカにはこんなのはないだろう?」とか、同じ科白ばかり。


うざい。


それで彼は世界人ぶるつもりだったのだろう。まあ、彼だけではなかろう。何しろ日本では「日本論」という本のジャンルまであるんだものね。その大半は「日本はなんで駄目なのか」がテーマだろう。「日本人」を一括りにし、その全員が何か凄く大事なものを忘れていると言いがちな本が占めるジャンルだ。俺はまだ読んでいないから分からないけどね。


この件に関して俺はこれといった意見がない。政治なら理解できっこないし、学力低下や漢字の誤りならかえって責めないでほしいぐらいだ。


でも、まあ、気楽にやろうよ。あまり熱くならないで、時事解説をSMAPに任せようよ。クローデルも素敵だが、フランスの詩人ならもっといい奴がいるぜ。


「金玉がちゃんと付いてなけりゃ忘れそうな奴らだ」

Rev. David S. Ciancimino, S.J.

誕生日忘れた!!


2.27 時計だぁ~!

俺は寝ていないと物事を真剣に考えてはいけない。

それは俺の決まりだ。

俺の人生の大切なルールだ。

今日そう決めたのさ。