こんな嵐の夜は 傷痕が疼く
右腕を引き千切る様な 在るはずの無い痛み
誰に話すこともなく 男はひとり苦惱している
残った左腕で何を為すべきかを...
不吉な予兆は 日に日に影を色濃く落とす
確實に その時が近づいている
あの日と同じ嵐の夜 男は人知れず旅立った
覺悟は決まっている まだ左腕がある...
男は扉を必死で押さえていた
扉の向こうは闇 邪悪な力が溢れ出ようとしている
それを左腕で必死に抑えていた
もうダメだ...右腕...右腕さえあれば...
男が諦めかけたその時
薄れゆく意識の中 温かい光を感じた
右手に槍を掲げ 嵐の中幾千の人々が祈っている...
あの時の子供達は皆 大人になった
雷神は右腕を失い 世界は生まれ変わった
右手が蒔いた種を育てたのは左手
そして美しい花がさく 幾千の花が咲く...
彼には勇敢な左腕と 幾千の右腕がある
決して負けはしない そんな想いが歴史を紡ぐ...
...やがて時は流れ...
「ねぇおじいちゃん、どうして?雷神様には、右手が無いの?可哀想だよ...」
と街角の子供は問う...
子供の小さな手を取り 老人は微笑んで答える
「雷神様の右手は、今もここにあるよ...ほれ、その右のポッケの中にも...」
「大変だお頭、前方に突然巨大な嵐が發生しやがった!」
「あ~ぁありゃSirenですぜお頭~!!」
「Siren如きでびびってんじゃないよ、情けないねぇ、
あっちが海の魔女なら、こっちは海の美女だっつうの!」
「"麗しき姿<美の女神>の如し"と謳われた、
この<海の女神様>を嘗めんじゃないよ...」
「そりゃ"猛き姿<戦の女神>の如し"の間違いじゃ...」
「Zimmer何か言ったかい?」
「ひぃ~!!!」
「いくよ野郎ども、びびってんじゃないよ!」
「そ~ら、おいでなすったぜ!」
...波間を漂う襤褸い板切れ
若い娘を背に乗せ何処へ往くのか...
「よぉ...気が付いたかい?」
「ここは何処?...貴女(あなた)は?」
「此処は<地中海>、この船は<絶世の美女=海の女神号>、あたいはこの船の船長La etitia」
「そっちの図体のデカイ野郎はYasro...筋肉馬鹿だ」
「宜しくな、嬢ちゃん」
「こっちの胡散臭い髭の野郎はZimmer...唯の馬鹿だ」
「がび~ん!」
「他にも馬鹿な野郎が大勢乗ってる...で、あんたは?」
「助けて下さってありがとう、私はAgnes、
海の魔女の嵐に巻き込まれてしまって...嗚呼...みんな今頃きっと昏い海の底に. ..」
「もう...海の女が泣くんじゃないよぉ...」
「...ってアナタ、その首飾りどうしたのよ?」
「うわぁ...立ち直りの早い娘だねぇ...
昔...溺れかけてたおっさんを助けた時に貰ったのさ、何でも命よりも大事なもんらし い...」
「そのおっさんって私の父(パパ)よ、間違いないわ!
生きてるの?生きてるのね?私の父は、いーきーてーるーのーねー!!」
「うわぁ...あんたも生きてた...親父さんも生きてたんだ...
あんたの仲間にも、他に生きてる奴がいるんじゃないか?」
「船を出して、今すぐ出して、出して、出しなさい、ふーねーをーだーしーなーさーい! !!」
「どひゃぁ~!!!!!」
波を殴り倒しながら突き進む海賊船
それを導くかのように蒼穹を翔け抜ける白鴉
その白は 真っ直ぐ蒼に溶け込んでゆくように
どこまでも...どこまでも...
私は馬鹿だ...そう沈んでから気付いた...私は
唯...歌いたかった
唯...この歌を聴いて欲しかった
唯...それだけだった...
蒼い波の雫 照らす...月は冷たく
大きな岩場の陰 庭舞台...夜は冷たく
聴いて...嫌や...聴かないで 空を呪う歌声
恨み唄...いや...憾み唄 海を渡る歌声
楽しければ笑い 悲しければ泣けば良いでしょう
けれど今の私には そんなことさえ赦されぬ
私はもう人間(ひと)ではない 歌うことしか出来ぬ
悍しい化け物へと変わり果てていた...
生きることは罪なのだろうか...望むことは罪なのだろうか...
歴史よ...アナタの腕に抱かれた 彼女達は言うだろう
「アナタの愛は要らない...私はそんなモノを愛とは呼ばない」と...
嵐を導く哀しい歌声は 白鴉の途を遮るかのように...