紅色の泪(1)の続きです。

 
※この記事は韓ドラが好きすぎて、

ひたすら個人的に楽しむために書いた二次創作品です。ご了承くださいあせる

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望んだこととはいえ、身内殺しをさせてしまった。

 

丞相はタルタル殿の親ともいえる存在。

 

それでもこの道を選ぶしかなかった。

 

タルタル殿しか頼れなかった。

 

私がタルタル殿を追いつめてしまったのかも…

 

 

―抱きしめた時にホンダンだけに語られたヤンの嘆き。

主が気がかりではあったが、

ホンダンはタルタルがいるはずのぺガンの屋敷へ急いだ。

 

屋敷では家人が慌ただしく動き回っていた。

 

それもそのはず、ペガンと出掛けたはずのタルタルが血にまみれ、

ペガンの亡骸を連れて戻ってきたのだ。

 

家人達も丞相が討たれたことに動揺を隠せなかった。

 

「なぜこんなことに」

 

「ああ、旦那様…」

 

あちらこちらで丞相の死を嘆く声が聞こえる。


そんな慌しさの中、ホンダンはタルタルの部屋の前に通された。

 

家人が中に声をかける。

 

「タルタル様、宮中からの使者がお越しです…」

 

返事はない。

 

「タルタル様のご様子は?」

 

「ひとりでおいでです。丞相のご遺体を安置された後、引きこもってしまわれて。

まだ鎧もお召しになったままでしょう…。誰も寄せ付けず、我々にも入るなと…」

 

「桶に、ぬるめの湯を用意せよ」


「えっ、あ、あの…」

 

ホンダンは家人に頼むと躊躇なく部屋に入っていった。

 

残された家人は宮中の、しかもヤンの使いであるホンダンに逆らう理由もなく、

湯の用意をするために足早に母屋に向かった。

 

「タルタル様、失礼致します」

 

タルタルは部屋の中央に刀を持ったまま立っていた。

 

黒い背中。

家人の言ったとおり、帰ったときのままの格好だろう。

 

「…誰も入るなと言ったはずだが」

 

「ホンダンです、タルタル様」

 

背を向けていたタルタルがゆっくりと振り向く。

 

「そなたは…ヤン様の…?」

 

憔悴しきった視線と交じる。

頬にはまだ血がこびりつき、両目は真っ赤に腫れ上がっていた。

 

ホンダンにはタルタルの魂が今にも抜け落ちそうに見えた。

 

 


―ああ、このままではいけない、休ませないと。

 


従者としての直感だった。

 

主の師であり、主の命を守ってくれた人だ。このまま放っておけない。

 

「ご無礼をお許しください」

 

ホンダンはタルタルの前に回りこむと、剣を取り上げた。

 

鎧を外し、足下がおぼつかないタルタルを支え椅子に座らせる。

 

「あの…湯をお持ちしました」

 

ちょうどよく、家人が湯をはった桶を持ってきた。

 

ホンダンは袖にたすきかけをすると、慣れた手つきでタルタルの長い髪を拭き、

肩にかからないよう頭の天辺にまとめ上げた。

 

桶の湯の温度を確かめ、手ぬぐいにひたすとタルタルの顔を拭いていく。

 

「目を閉じていてください」

 

湯は少し痛むだろうから、と赤く腫れた目の周りはよりていねいに。

 

タルタルはされるがまま、というより、拒むような気力すらないようだった。

項垂れてたタルタルの上着の紐を解き、上半身の肌も拭きあげていく。

 

「………」

 

なにか言いたげな表情でタルタルがホンダンの作業を見つめる。

 

「尚宮という地位をいただいておりますが、元々は雑用係です。

ひととおりのお世話は心得ております」

 

上着の紐を解き、脱がせる。

 

手ぬぐいを湯につけ直し、背中側へ回ると、腕、脇腹、背筋をぐるりと手際よく拭き上げた。

 

鍛え上げられたタルタルの肩や背中には刀傷がいくつも残っていた。

 

そのひとつひとつがペガンと一緒に戦ってきた記録。

 

「たくさんの傷を受けて、ここまでこられたのですね」

 

ぴくりと肩が動く。

 

しまった。

つい口に出てしまった。

 

今は戦いを思い出させるような言葉を言うべきではなかった。

 

「も、申し訳ありません…」

 

「な、ぜ…」

 

「?」

 

「なぜ…私にかまう?早くヤン様からの伝達を申せ」

 

「いいえ…伝達で伺ったのではありません。

ヤン様はタルタル様をご心配なさっています。

様子を伺って、すぐ帰るつもりでしたが貴方のお顔を拝見して、私も…」

 

ちゃぷん、と手ぬぐいが桶に浸かる。

 

ホンダンはタルタルの首元に片手を添えると静かに続けた。

 

「…とても心配になりました。

ですので、お世話をさせていただきます。

お嫌でしたら、どうぞ私をお斬りになってください」

 

タルタルにそのような気力が残っていないことは見れば分かる。

 

ヤンの使いであるホンダンに手など出せないことも。

 

私も強気に出れるようになったものね、とホンダンは小さくごちた。

 


手ぬぐいが鎖骨をなぞる。

肌に伝わる濡れた布の感触がいつしか心地よくなっていた。

 

ペガンの血、最期に絞り出した声…

 

全身に纏わりついて離れなかったものが

ホンダンの手によって、汗と一緒に拭き取られていくような錯覚さえ起こす。

 

着替えを持ってきた家人は、近づく事も許さなかったタルタルが

宮中から来た女官の世話を受けている姿に驚いたが、

タルタルが落ち着いていたので、安堵したようだ。家人はホンダンに訊ねた。

 

「他に必要なものはございますか?」

 

「なるべく冷たい水を。あとこれでお茶の用意も。ゆるめのお湯で淹れて」

 

宮中から持ってきた茶葉の入った包みを渡す。

 

「かしこまりました」

 

家人は一礼して部屋を出て行った。
 

 

 


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(3)へ続く