新世界(2)
「お、王様、今なんと…?」
王妃だけではなく、そばに控えていたムヒュルも目を丸くする。
「ん?聞こえなかったか?タムをこのまま宮殿で引き取りたいと言ったのだ」
「王様…本気でそのようなことを…?」
「このひと月、タムの様子を見させてもらった。なかなか賢い子のようだし、
女官として育て、独り立ちできるまではここで見守ってやりたい。その先はタム自身が決めればよい」
女官として育て、独り立ちできるまではここで見守ってやりたい。その先はタム自身が決めればよい」
王が隠れてタムの様子を伺っていたのは、
タムが女官としての教育を受ける素質があるかを見極めるためだったのだ。
タムが女官としての教育を受ける素質があるかを見極めるためだったのだ。
王は王妃の返事を聞いて安堵した。
「王様…実は私もそれをお願いできないかと考えておりました」
「王様…実は私もそれをお願いできないかと考えておりました」
「あの子はもう、生きていてはならぬ子だ。ほとぼりが冷めたとはいえ、
宮殿から出れば、遅かれ早かれ命をおとすだろう」
王は少しだけうつむき、せめてもの償いだ、と小さな声でつけ加えた。
舅である上王に父親を粛正され、王妃自身もいまだに深い悲しみの中にいた。
シム・オンの使用人というだけで、タムの父親も命を落とした。
何の非もない父親を殺されたタムに、王妃も大きな責任を感じずにはいられなかった。
何の非もない父親を殺されたタムに、王妃も大きな責任を感じずにはいられなかった。
「私は…タムに生きていて欲しいのです。僅かな期間でしたが、
使用人とはいえ一緒に暮らした家族に変わりはありません」
使用人とはいえ一緒に暮らした家族に変わりはありません」
王妃の切実な願い。
「余の力が足りず…あの子をひとりぼっちにしてしまった…」
「いいえ、もうそのようなことは仰らないでください。王様は…できる限りのことをしてくださいました」
粛正の後、王妃のそばで一晩中一緒に泣き続けた王の姿が王妃の脳裏に焼き付いている。
助けるよう懇願したのは自分だが、
それが王の実父である上王イ・バンウォンに逆らうことと分かっていながら、
密書を書きシム・オンを助けようとしてくれた王に恨み言など言えようか。
助けるよう懇願したのは自分だが、
それが王の実父である上王イ・バンウォンに逆らうことと分かっていながら、
密書を書きシム・オンを助けようとしてくれた王に恨み言など言えようか。
「王様のご慈悲に、心から感謝いたします」
王妃は深く頭を下げ、感謝の意を表した。
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「ところで、タムの声はまだ出ないのか?」
「はい、それはまだ…」
あの事件の後、タムの体に異変が起きた。
王妃と女官達の看病によって、牢から逃げ出した時の傷はほどなくして癒えたのだが、
心の傷までもが癒えるにはまだまだ時間がかかる。
心の傷までもが癒えるにはまだまだ時間がかかる。
タムは眠れないーというより、眠ろうとしない。
ひとりで眠ると必ず怖い夢を見るというのだ。
タムは眠くなっても我慢をし、一晩中起きている。
しかしまだ子どもだ。限界はある。ギリギリまで睡魔と戦い、突然意識を失う。
おそらく、この方法だと深く眠れるから、悪夢を見ないですむのだろう。
だが、タムのような子どもがこのような眠り方をするのはいいことではないと医者は注意した。
誰かが手を握り、うなされたらすぐに起こしてられる状態で眠れるよう、
王妃が1日のほほとんどをタムと過ごすことにしている。
そして、いくらかは改善はされたのだが、タムは眠れない体質になりつつあった。
王妃が1日のほほとんどをタムと過ごすことにしている。
そして、いくらかは改善はされたのだが、タムは眠れない体質になりつつあった。
もうひとつの問題。
タムは話せなくなった。
家族の死を目の当たりにした衝撃のせいか、または病なのかは判明していない。
医者にも診せた。日に何度も発声を試みている。
だが、タムの声は戻らない。
「突然声を失ったのだ。タムも混乱しているのだろう。声が戻るまでの意思疎通の手段を考えねば…」
「王様、タムは少しですが文字が分ります。一度見た文字は覚えてしまうと以前、母から聞いたことが」
心配の色を浮かべていた王の顔が少し緩んだ。
タムが読み書きの素質があるのなら希望がある。
「そうか。それでは私がタムに文字を教えよう。筆談ができれば声が出なくとも石の疎通ができる」
「王様が直々に、ですか?」
いくら宮殿であれ、王自らが、たとえ匿っているとはいえ
下民に文字を教えるなどあり得ない話だ。
下民に文字を教えるなどあり得ない話だ。
タムは家族を失った原因が王だと思っていて、王を嫌っている。
石の一件の後、王妃の説明で落ち着きはしたが、王には心を硬く閉ざしてしまった。
そんなタムが王に文字を習えるだろうか。
そんなタムが王に文字を習えるだろうか。
ふと、王妃が辺りを一瞥すると、
女官や内禁衛将のムヒュルは『またか』という諦めの顔をしている。
女官や内禁衛将のムヒュルは『またか』という諦めの顔をしている。
王が一度言い出したら聞かない頑固者だということは側近たちも十分に知っている。
それが我が侭であっても、反対しても無駄なこと。
もはや側近達も反対するのが面倒なのか
「ご自由になさいませ」の意を込めた目配せをした。
「ご自由になさいませ」の意を込めた目配せをした。
呆れる側近達をなだめるように王はつぶやいた。
「あの子のために余ができることは、…それしか思いつかぬのだ。今は」
(3)に続く
(3)に続く