新世界(3)
「タムをこちらに」
「タムをこちらに」
王は女官に命じ、自らは素早く王妃の後方に身を隠す。
「王様?」
「静かに、余がいると、タムが来ないではないか」
王は平気な顔をしていたが、タムに避けられていることにそれなりに傷ついているようだ。
自分がいるとタムが寄ってこないと思ったのだろう。
王妃はおかしくなって、くすくすと笑った。
女官が庭園の端まで走り、王妃が呼んでいることを伝えると、タムは小走りでやってきた。
王妃のもとまで、あと5歩。
「!」
ところが、王妃の後ろに王がいることに気付き、くるりと踵を返す。
そのまま逃げるように逆方向に走り出した。
「タム?どこへ行く?!」
王の声と同時に女官達がタムを追いかける。
庭園で鬼ごっこが始まった。
庭園で鬼ごっこが始まった。
(あの人の…王様のせいでみんな死んだ。王妃様は好きだけど、王様には近寄りたくもない)
素早いタムは追いかけてくる女官達を難なくかわし、
庭園の出口に通じる階段へ向かう。
庭園の出口に通じる階段へ向かう。
(あの人は嫌)
階段を駆け下りようと最初の段に足を伸ばした瞬間、バランスを崩してしまった。
(落ちる!)
女官達が「あっ」と声が上がると同時に大きな影がタムを追い越し、下からタムを抱き止めた。
内禁衛将のムヒュルだった。
胸を撫で下ろす王妃と女官達。
ムヒュルはそのままタムを肩に担ぎ、階段を上がって王達のもとへ歩み寄る。
「~~~~!!」
タムは手足をばたつかせ、抵抗し、さらにはムヒュルの背中に噛み付く。
「こ、こら!暴れるな!」
朝鮮一の剣の使い手といわれる内禁衛将が幼子に翻弄されている様子に、王は吹き出してしまった。
「ははは、もうすっかり元気になったではないか、タム」
タムを放すと逃げられてしまうと思ったのか、
ムヒュルは王の前まで来ると、タムを下ろし、膝をついて後ろから抱き込んだ。
ムヒュルは王の前まで来ると、タムを下ろし、膝をついて後ろから抱き込んだ。
ムヒュルの腕の中にすっぽりと収まったタムは
目の前に立ちはだかる王に気付き、観念したのか大人しくなる。
目の前に立ちはだかる王に気付き、観念したのか大人しくなる。
王がしゃがんでタムと目線を合わせた。
「タムや」
タムは王がよほど嫌なのか、
顔を背け、距離を取ろうとムヒュルの腕にしがみついた。
顔を背け、距離を取ろうとムヒュルの腕にしがみついた。
密着してきたタムがあまりに小さく柔らかいので、
うっかり壊してしまうのではないかとムヒュルは一瞬怖くなり、腕の力を緩める。
うっかり壊してしまうのではないかとムヒュルは一瞬怖くなり、腕の力を緩める。
「余には笑ってくれぬタムが、ムヒュルには懐いておるではないか。
そなたいつの間にタムと仲良しに?」
そなたいつの間にタムと仲良しに?」
「仲良しだなんて、王様…」
ぬけがけしたな?などとからかわれ、しどろもどろになるムヒュル。
無礼な態度を続けているタムに、王はそれでも笑顔を向ける。
そして女官に命じた。
「筆と紙を」
墨入れの付いた携帯用の筆入れと帳面を女官が王に渡す。
王は筆を取り、さらりと何かを書いた。
「この漢字が読めるか?」
タムの前に差し出された帳面には、漢字が書かれていた。
(ソ、イ…たぶん、ソイと読むはず)
小さく、頷く。
「この漢字が読めるなら話は早い。そなた、女官にならぬか?」
「………」
「余が嫌いならば宮殿から出て行くがいい。
これはあくまで余からの提案だ」
これはあくまで余からの提案だ」
歩み寄ってきた王妃の顔を見上げるタム。
「タム、しばらくはここにいるのが一番安全だ。
大丈夫、私達も、女官達もみんなそなたの味方だ。ここにいなさい」
大丈夫、私達も、女官達もみんなそなたの味方だ。ここにいなさい」
「………」
あれだけ無礼な態度をとっても、まだ私をここに置いてくれるというのか。
なんてお人好しな王様…。
ただ、断れば王妃が悲しむような気がして、こくり、とタムは小さくうなづいた。
タムのその動きを見たとたん、王の声色は明るく変わる。
「今日からそなたは『ソイ』だ」
王がもう一度帳面を差し出す。
(ソイ…新しい私の名前…)
それを受け取ると、タムは新しい名前をつぶやいてみた。
やはり音にはならなかったが、
少女の口から漏れた空気は、風に混じって空高く昇っていった。
(了)
少女の口から漏れた空気は、風に混じって空高く昇っていった。
(了)