軍師と側室 「忠誠と鞭」の続きです。

 
※この記事は韓ドラが好きすぎて、
ひたすら個人的に楽しむために書いた二次創作品です。ご了承くださいあせる



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「想いは月に照らされて」
 
 
 
 
 
花嫁修業も終盤にかかった頃、
ヤンはペガンやタルタルの蔵書を読みたいと申し出た。
 

 

ペガンは二つ返事で「よかろう」と許し、
ヤンは鍛錬の合間、寝る間を惜しんで書を読みふけった。
 
 
タルタルが調べものをしたくても書庫にはヤンが陣取っている。
 
ヤンを避けていたタルタルにとっては迷惑な話だった。


 

 

ある夜、タルタルはいつものようにヤンを避けて深夜に書庫へ行った。
 
鍛錬に疲れ果て、自室で眠っているはずのヤンが
書を広げたまま、タルタルの机で寝息を立てている。
 
 
ヤンを動かしているものはただひとつ。

 

復讐心。
 

 

「死ぬことは恐れない」

あの時のヤンが見据えていたのは、
目の前のタルタルではなく宮中にのさばる憎き者たちだったのだろう。
 

 

だが、たかが高麗の女ひとりの復讐に
我が一族が道連れになるような危うい契約はすべきではない。

 

 

-情を持つな。
 
-心を移すな。

 

 

何度も心の中で繰り返した呪文。
 
己を揺るがすヤンの一途な想いを振り払おうとすればするほど、
脳裏に彼女の舞が浮かぶ。

 
 
「…私の負けだ」


 
ため息とともに、ついに敗北の言葉を紡ぐとタルタルは静かに書庫を出た。

 

 

広げた両の手のひらを見る。
 
 
ヤンがこの屋敷に来てから、自分の手が小さく思えるようになった。
 
 
武将の叔父に仕え、数たる戦いの軍師として勝利を得てきたはずのこの手が、
たった一人の娘を掴みきれずにいる
 
 

 

-あの娘はこの手には余りすぎる。
 
-諦めるのは私の方だ。


 

 

タルタルは月が白むまで、中庭に立ち尽くしていた。

いつの間にか芽生えた気持ちの正体には知らぬ振りをして。




 

 

 

 

朝方、ヤンが目を覚ますと肩に見覚えのある上着がかけられていた。


 
「タルタル殿?」
 

 

-少しだけ、あの方に近づけたのかもしれない。

 

 

ヤンの胸の奥にあたたかいものが広がる。

 
 
母のように慈しんでくれた人、同郷の友、そして愛する人との子を失い、帰る場所をなくした。
 
絶望の中から復讐の道へ這い上がり、がむしゃらに過ごす中で感じ取ったぬくもりは-

 

 

タルタルとの絆だった。


 
タルタルがヤンの師になったのはそれから数日後のことだった。
 
 
(4に続く)