『滝桜10』 | 一斗のブログ

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2011年6月15日に小説を出版しました。
出版をするにあたっての様々なエピソードや心の葛藤、病気の事等書きました。今はショートショート(超短編小説)やエッセイ等を載せています。宜しくお願いします。

   正男・咲子・ポチ、驚いて、

正男・咲子 「品種改良!?」

ポチ 「ワンッ!?」

   正男、ポチの肩をポンと叩きながら、

正男 「いや、おめぇが驚く意味がわかんねぇ。(小声で)オッサンだとバレるぞ」

咲子 「何ブツブツ言ってんだい?」

正男 「ま、まあ気にすんな。それより。品種改良ってなぁ、今の滝桜をどんな風に変えたいんだぁ?」

仁美 「え~と広志さんの話ではわかり易く言えば、樹木自体の見た目はそのままでも今よりもっと綺麗な花が咲くようにしたり、他には病気になりにくくするとか、あらゆる環境でもちゃんと育つようにとか、今よりもっと寿命を延ばすとか・・・」

   正男・咲子、更に驚いて、

正男 「そそ、そんな事が出来んのか!?」

咲子 「凄いじゃない!!」

   仁美、少し弱気な表情で、

仁美 「あの、今はまだ・・・あくまでも将来的な夢というか希望を言ったまでで・・・。ただ、滝桜というのはエドヒガンの桜が突然変異したもので、エドヒガンよりも比べものにならない確率で枝垂れ桜に成長するという事がわかっているんです。その突然変異のメカニズムを解明出来れば何かしら先が見えてくるんじゃないか、というくらいの段階でだそうです・・・」

   仁美、急に熱く語りだす。

仁美 「滝桜って凄いんですよ!もちろん大変な工夫が必要ですけど、種から育てて枝垂れ桜になる割合が十本に三本もあるんです。野生種のエドヒガンの桜は五合程の種を蒔いても枝垂れ桜になるのはせいぜい十本程しかないんです。そして私の父が生前、福島県には野生種のエドヒガンの自生地がないのが不思議でならないとよく口にしてました。今あるエドヒガンの枝垂れ桜の老木は全て人に植えられたものだそうです。それなら樹齢千年を超えると言われる滝桜は一体どこからやって来たのかしらって考えると悠久の時の流れみたいなものを考えさせられて・・・素敵だな~と思いません!?」

   正男・咲子、呆気に取られた顔になる。

   その後、正男はデレッとした笑顔で、

正男 「仁美ちゃん、色んな事知ってんだなぁ。おれぁ感心しちまったぁ~」

咲子 「ちょっと、あんた!!鼻の下が伸びてるわよ!!それに仁美さんから仁美ちゃんって・・・。このスケベオヤジ!!」

仁美 「す、すみません!!私ったらつい調子に乗って喋り過ぎてしまって」

   正男、真面目な顔に戻り尋ねる。

正男 「おお、おお。そうだそうだ。広志のやりてぇ事はわかった。だけんど、仁美ちゃ・・・仁美さんだけ許してくれってのは筋違いなんじゃねぇのか?それに広志のやりてぇ事だって、それが善い事であろうがどうだろうが結局は人様を騙した事には変わりねぇんだ!」

   ポチ、正男に吠える。

ポチ 「ワンッ」

正男 「な、何だよ。このオッサンか犬かわからねぇような奴なんか怖くねぇぞ!!それによぉ、確かに滝桜ってぇのは地元の観光名所だし、昔から地元の皆に大切にされてるがよぉ。それが東北の復興支援になんのかぁ?」

仁美 「私の親が言ってました。滝桜っていうのは、古来から信仰の対象になっていたって・・・。だから今よりもっと立派な花が咲く様になって、永遠(とわ)に倒れる事なく存在し続ける様になった・・・。と知れば、今、復興を必死に頑張っている人達の未来への希望になるんじゃないかって考えて広志さんは研究を始めました」

   仁美、話を続ける。

仁美 「広志さんは私の為、いえ私の父の夢を叶えてくれる為に悪い事だとわかっていても必死で動いてくれたから・・・。広志さんだけを悪人にしたくなくって私が無理言って広志さんについて回ってたんです。(泣きそうな声で)本当に申し訳ありませんでした」

   全員、下を向いたまま黙り込む。

   少し沈黙の後、正男が何か思い出した様な表情で仁美に尋ねる。

正男 「仁美さんの父親さんの夢?。ひょっとしてよぉ・・・仁美ちゃ、いや仁美さんって~、(仁美の顔をマジマジと見て)ヒトミちゃんじゃねぇか?」

咲子 「ま~た、このスケベオヤジが・・・」

正男 「ちょ、ちょっとまて咲子。そんなんじゃねぇんだ

・・・。(独り言で念仏を唱える様な口調で)こんなに若ぇのに滝桜に詳しくて・・・、亡くなった親父さんの夢・・・、広志のやりたい事が滝桜の・・・親父さんの夢・・・」

   正男、仁美を見て、

正男 「そういえばおめぇさん、苗字は何ってんだぁ?」

咲子 「あんたはホントに記憶力が無いんだねぇ。最初にちゃんと自己紹介してくれたじゃないの!」

   仁美、答える。

仁美 「くすのき、楠木仁美です」

   正男、嬉しそうな笑顔になる。

咲子 「何だい?ま~たニヤニヤして気持ち悪いったらありゃしない。あ~あ、ヤダヤダ」

正男 「馬鹿野郎!咲子。記憶力がねェのは誰だって~?」

咲子 「何よ!何が言いたいのよ!!」

正男 「まだ思い出せねぇのか?仁美ちゃん、おめぇさんの親父さんの名前(なめぇ)、茂之じゃねぇか?」

仁美 「あ、はい!!そうです。茂之、私の父の名前は楠木茂之です!」

   正男、咲子の方を見てニコッと笑う。

   その正男の顔を見て咲子もハッとした表情になる。