君が居なくなってもう二年程が経つ。
僕は相変わらず毎日会社へ通い、そろそろ主任になれるかもしれない。
そんな年になった。
君と出会った頃はまだまだ新人で、仕事もままならず君と休日に会うその時だけが、
ちょっとサラリーマン風な感じで少しだけ気分が良かった。
そんな僕も月日が経つと、仕事の方に追われ会社の女性達とうまく会話も出来るわけでもなく、
ただ毎日が仕事をこなす、そんな自分になっていることに、はたと気付いた。
僕も今年で29になり、そろそろ結婚の話でも無いかと両親からは急かされるが、
好きな人が居ない限り結婚どころか、付き合う人なんて居るわけない。
そんな日々を送っている自分を情けなくも思った。
今日は上司である田中課長と同意して、大口の取引をしに行かなければならない。
失敗は許されない。
田中課長はベテランでドンと構えているが、
実際の書類を交わしながらのやり取りは全て僕がしなければならないことがわかっている。
田中課長はそんな僕をおそらく試すのであろう。
僕には緊張が走る。
いざ取引先の会社へ到着し、実際にその商談を始める。
僕は夕べから作り上げた資料と、
ずっと考えていた商談のやり口を駆使して何とかこの相手を始末してやろうと必死に言葉を放つ。
相手の部長は、意外にも僕の資料と書類に興味を持ってくれたらしく、
僕の話を穏やかな感じでずっと聞いてくださった。
僕は少し調子に乗ったのか、自分だけが考えていた書類を持ち出し、
その部長に思い切って話を持ち出した。
途端に、その部長は顔色を変え急に黙り込んでしまった。
田中課長はその表情を見て、「すみません!まだ若いもので。申し訳ありませんでした」と、謝った。
暫くの沈黙が続いた。
すごく長い時間に思えた。
そして部長が僕の顔を見据えて、こう言った。
「これは、君が考えたのかい?」
「はい」
「わかった」
「大したものだ」
「この商談は成立だ」
「いやぁ、田中さん。いい部下を持たれましたね」
「この企画はおそらく成功するでしょう」
「あ、ありがとうございます!!」
思わず、田中課長は返事をしたが、本当内心はものすごく緊張していた筈である。
このくらいの仕事はやれねぇと。
僕は満足して会社へ帰り、そして自分の仕事を終え、帰路へ向かった。
帰りながら、僕は昔の彼女のことを考えていた。
二年前の彼女のことだ。
何も出来ない僕に懸命に尽くしてくれた彼女が、僕のところから去って行ったことを。
今の僕ならそんなキヲクも消して、また付き合えるかもしれない。
また出会える日があるならば、もう一度告白してみよう。
ちょっとかっこ悪いが、二年越しの告白を。
一斗