時代は1980年代。
日本中がいわゆる不良、ヤンキー、暴走族で荒れていた頃の昔話である。
そんな暴走族に憧れていた少年、その時の年齢が16歳。
高校に進学するも直ぐに退学してしまい、
今では友人の父親が経営する自動車整備工場で汗水を流している。
勉強は全く出来ない少年だったが、
こと車やバイクのことになると真剣な眼差しで社長の話を聞き、
そして次の日にはそのテクニックをほとんどマスターしている程、
その道には向いている少年のようだ。
名前は、春山俊彦。
この時代のワルと言われる代表格みたいな存在であるが、
一つだけ本人の中で決めていることがある。
自分が整備したバイク以外には絶対に乗らないという、
他人を信じない信念みたいなものを持っている。
実際、彼は自分が整備したバイク(Z500)でどんな走り屋にも負けたことはない。
わずか16歳の少年が、通称最速マッハの鬼と呼ばれるほどの腕前である。
この当時の単車といえば、KAWASAKIのZ-750通称ZⅡ(ゼッツー)が
最も最速だと言われていたにも関わらず、春山はナナハンキラーという異名を独占していた。
本人の整備とそのテクニックあってのことだが、
ある日その愛車であるマッハを貸して欲しいという友人が訪ねて来た。
春山の中学時代の親友である。
もちろんその親友も単車は持っているし、
そこそこの腕前であるがどうしても負けられない勝負をしなければならないと、
春山にその話を必死に持ちかけてきた。
当然春山はその理由を問い詰めるが、それは聞かないで欲しい、と一点張りするのだった。
昔からの親友からの頼みだけあって、春山はその話を受け入れ、最高の整備を施した。
その週末、春山に最悪の電話が掛かってきた。
その親友が、自分のマッハと一緒に木っ端微塵になったという。
その時までは春山は冷静だった。
何故なら、それ程までして頼んできた親友のことだから、
きっと何か訳があると予想出来ていたし必ず生きていると信じていた。
春山はすぐに別の単車で現場へ向かった。
その現場に着き、自分の単車と共に救急車へ運ばれようとしている親友を見た時、
春山は心から後悔し、雄叫びをあげながら自分のやってしまった行為に対して怒りさえ覚え、
その場に座り込み、ただ呆然と赤いサイレンを眺めていた。
親友が自分のマッハを借りたのには、自分のマッハでしか出来ないことをしようとしたからだ。
後から聞いた話だが、彼女を賭けての勝負に挑んだのだ。
相手は、フルチューンされたハコスカだった。
しかも、その勝負の場所は海岸線のカーブが少ない直線道路でそのハコスカに乗った連中は、
ありとあらゆる汚い手を使って俺のマッハをぶっ壊していた。
辺りにはオイルも撒き散らされ、完全に殺人行為だった。
春山は気が狂いそうになり、警察官が宥めるのを押し切って、その主犯格に向かって行った。
だが、さすが春山の親友だけのことはある。
奴は最速マッハを完全に乗りこなしていたんだ。
主犯格の顔だけは、マッハの前輪のタイヤ痕でグチャグチャになって死亡しいた。
その時の場面が頭に浮かんだ。
勝ち誇った主犯格が自分たちの勝利を確信し窓から顔を覗かせた瞬間、鬼のマッハでウイリーしながら
おそらく最高に回転させた前輪で顔をグチャグチャにして、
そして本人は勝ち誇り死んだのだろう。
それを裏付けるように、他に乗っていた3人は体をガタガタ震わせ、春山の顔を見ようともしなかった。
いつもは冷静な春山が、
我を忘れてしまったかのように声が枯れるほどの大声で叫んだ。
「どうして一人で行ったんだよ!!何で!!俺を呼ばなかった!!!!」
「一人で逝きやがって・・・」
春山はその時、単車乗りをやめようと思った。
自分には大切な彼女も友人も居る。
さっきまで生きていた奴が、
いとも簡単にスクラップみたいになってしまう姿を目の当たりにすると、
自分の愛する人にはとても見せられないと心に誓った。
そしてそのマッハは自分の手で廃棄処分した。
気が付くと、夜は明け空が紫色に染まっていた。
春山はその紫色に誓った。
二度とこんな事が起こらない為に・・・。
ーえーっと、これは僕らの時代の昔話おとぎ話(笑)です。
全く分からない人には申し訳ないです!!
懐かしい、と思ってくれた人が居たら嬉しいですー
一斗