シャミッソーの『影をなくした男』(池内紀・訳、岩波文庫)を読了。
フケーの『水妖記(ウンディーネ)』、
ホフマンの『ブランビラ王女』に続いて、
「ペーター・シュレミールの不思議な物語」という原題を持つ
アーデルベルト・フォン・シャミッソーの代表作を読みました。
実は、この作品、『ウンディーネ』の作者たるフケーと
ホフマンの作った「ブランビラ王女」とは、
まったく無関係ではありません。
『影をなくした男』は、作者であるシャミッソーが書き上げた原稿を、
友人のフケーに預けていたのだけれども、
その原稿をフケーが無断で公刊してしまったのです。
その間、シャミッソーは3年にもおよぶ世界一周旅行に出かけていた。
だから、ドイツへ戻ってきたシャミッソーは、
自分の知らぬ間に、作品が世に出ていてビックリ。
まあ、無理もないですね(笑)
でも、そのおかげで、このメルヘン的な不思議な物語は、
人々の目に触れることとなったわけで、
フケーの独断は、結果として、
人々を素敵なメルヘンと引き合わせてくれたと言えるでしょう。
一方のホフマンは、『ブランビラ王女』において、
【勇敢なる世界航海者アーダルベルト・シャミッソーがかたじけなくもその報告に伝えてくれているところの『ペーター・シュレミールの不思議な物語』のなかに、つとに、かのブランビラ王女の魔法をして顔色なからしめるような奇術を弄してみせる、さるまことに興趣横溢せる灰色の男のことが語られている】
と記述しています。
フケー、シャミッソーの共通の友人であるヒッツィヒが
『影をなくした男』をホフマンに読んで聞かせたところ、
夢中になって聞き惚れていたそうです。
では、『影をなくした男』とは、どんな物語なのか…。
ペーター・シュレミールは、紹介状を手に、
大金持ちのトーマス・ヨーンの邸宅を訪れる。
お屋敷の庭園では、ヨーンが客人たちをもてなしながら歓談中。
すると灰色の男が、ヨーンや客人たちの要求に応じて、
服のポケットから、望遠鏡や絨毯やテント一式、
はては3頭もの馬まで取り出してみせたのであった。
ヨーンの屋敷から帰ろうとするシュレミールを
その灰色の男は呼び止め、
「あなたのその高貴な影を頂戴できないものでしょうかな」
と提案する。
そこでシュレミールは、
何枚もの金貨が次々と出てくる「幸運の金袋」と引き替えに、
自らの影を、男に譲り渡してしまう…。
それからのシュレミールは、
影を持たぬことを理由に、世間の人々から白眼視されます。
お金はありあまるほど持っているのに、
人から石を投げつけられたり、夜の時間しか外を出歩けなかったり、
そして素敵な女性と出会って恋をしても、
その家族の反対に遭ったりする…。
この作品を読みながら、東野圭吾の『手紙』のことを思い出しました。
そちらの作品は、強盗殺人を犯した兄を持つゆえに
就職も恋愛もままならぬ青年が主人公となってましたが、
世間から差別的な扱いを受ける状況は共通していますね。
はたして、シュレミールは影を取り戻すことができるのか、
どのような結末を物語は迎えるのか…。
それは読んでのお楽しみです。