蝿 | なんちゃって作家の青息吐息

 俺の部屋に女が来るようになった。
 友達が経営するバーで知り合った女だ。

「いつもひとりなのね」

 そう言って、隣に座った。
 肌の色がぬけるように白く、肩で切りそろえた髪は黒い。少しぽっちゃりとした体つきが、あまり若くはないだろうと思わせた。
 のっぺりとした顔に、ギョロリと動く大きな眼。下向き加減の鼻は高いのか長いのか。
 美人ではないが、妙になまめかしい色気があった。その表情は、どことなくカマキリを思い起こさせる。

「あたしもひとりだから、ちょうどいいわ。話し相手になってくれない?」
「それくらいなら……」

 その日のうちに、なるようになった。

 女は三十二歳。半年前に離婚したばかりだと言った。子供は作らなかったらしい。

「あたしより二つ年下なのね。結婚はしないの?」
「考えたことないなぁ」

 それからちょくちょく俺のアパートに来ては、掃除だの洗濯だのをして泊まることが多くなった。
 女は植物が好きだった。少しずつ女の私物が増えていくのと同様に、何もなかったベランダには、鉢やプランターが並ぶようになった。

「これは? 変わった葉だね」
「それはハエ取り草。食虫植物よ」

 女はそう言うと、指でトゲに触れた。バクン、と勢いよく葉が閉じる。
 そういや、カマキリの別名はハエ取り虫って言ったっけ…。
 俺は女の横顔を見ながらそんな事を考えていた。
 ハエ取り草は、その名の通り昆虫を食べる植物だ。小虫が葉にとまると、開いていた葉がいきなり閉じてたちまち溶解液の出る牢獄と化す。
 植物に騙された昆虫は、何もかも吸い取られて植物の養分になる。騙す方が悪いのか、騙されるほうがバカなのか。
 俺は昆虫が少し哀れに思えた。

「お前、騙されてるぞ。本当は四十女だぜ」

 先日、友達はそう言った。

「デキたみたいなの。だから、きちんとしてね」

 今日、女はそう言った。
 どうやら俺も、捕まったらしい


                 終わり