きょうの衆議院・本会議で「共謀罪(テロ等準備罪)」の審議が始まった。
この「共謀罪(テロ等準備罪)」を遂行するには、警察、検察による通信傍受、盗聴・盗撮等の諜報活動が必須であり、犯罪捜査の中核を成している。
捜査情報をもっとも知り得る立場にあって、収集した極秘情報を蓄積できるのは現場にいる彼ら自身である。彼らが自由で広範な捜査手法を許されれば、本来の職務を超えて、情報収集を行い、捜査で知り得た極秘情報を蓄積し、自身のために利用することも可能になる。
実際、そうした極秘情報を積極的に収集し、自己の権力維持のためにフルに活用した人物が、かつて米国にいたのである。8人の大統領と16人の司法長官に仕え、48年間にわたって米FBI(米連邦捜査局)長官であり続けた男「J・エドガー・フーヴァーFBI長官」である。
8人の大統領とは、クーリッジ、フーヴァー、ローズヴェルト、トルーマン、アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソンである。しかし、「大統領も司法長官もだれひとり彼を解任できなかった」と、『フーヴァー長官のファイル』の訳者、吉田利子氏は記している。
なぜ、巨大な権限をもつ大統領も司法長官も解任できなかったのだろうか?
フーヴァーFBI長官は、大統領であろうと一般市民であろうと、お構いなくスキャンダル、プライバシーをはじめ身辺調査を徹底的に行い、しかも「極秘ファイル」として密かに保存した。では、ほんの一例を挙げておこう。
彼はエレノア・ローズヴェルト大統領夫人(ファースト・レディ)のスキャンダルを掴もうと彼女自身や関係者をつけまわしたり、ケネディ大統領暗殺事件の真犯人究明の邪魔をしたり、あるいはマーティン・ルーサー・キング牧師を憎んで、自殺に追い込もうと図った・・・。
50年以上も忠実に仕えた女性秘書は彼の死後、密かに大量のファイルを処分した。「この類稀なる官僚は、同時に大統領や議員、判事などにとって恐ろしい存在であった」として、吉田氏はこう記している。
「そのファイルには、上は大統領、議員、ハリウッドのスターから下は無名の市民にいたるまでのひとびとの、とくにスキャンダルや違法行為に関する厖大な情報が集められていたという。この極秘ファイルがあったために、歴代大統領はフーヴァー(長官)を更迭しようとして果たせず、FBIを調査しようとした連邦議会の試みも阻まれ、彼は終身、長官の座に留まることができた。この極秘ファイルはつねにワシントンに不気味な影を投げていたのである。」
審議する国会議員、とりわけ政府・自公議員は、「共謀罪(テロ等準備罪)」法案が、フーヴァー長官のような怪物を生み出す危険があることを肝に銘じておく必要があろう。