ティーパーティーが終わり、蕨一太は自分の部屋に戻ると、すぐに資料を手に取り机に向かった。住民との会話は終始和やかだったが、何かが胸に引っかかっていた。全体的に表面的なやり取りばかりで、修繕積立金に関する具体的な意見が出なかったことに手応えを感じなかった。彼らは気にはしているが、踏み込もうとはしない。住民が重要な話題について、こうしたいという意見を出さなかったことが、不自然に感じられた。関心がないように見せている背後に、隠された問題や恐れていることがあるのではないかと疑った。
そこでまずは、管理組合の会計報告書に目を通すことにした。報告書を確認する中で、まず彼が気になったのは、茂原理事長の報告内容だった。彼は理事長として管理組合の総責任者であり、会計報告にも最終的な承認を与える立場にいる。報告書は表向きは完璧に整えられているが、修繕積立金の詳細については疑問が残る。特に不自然な点は、いくつかの大きな支出が理事会の議事録には記載されていないということだ。
「こんな大きな支出があったなら、理事会で話し合われているはずだ」
しかし、議事録には修繕積立金に関する議論がほとんどなく、細かい支出の内容についても説明がない。茂原理事長がそれを黙認しているのではないか、という疑念が湧いてきた。次に、蕨が気になったのは木更会計監査役員の存在だった。監査役として、彼はすべての会計を厳密にチェックする立場にいるはずだ。しかし、報告書には何の異議もなく承認が押されている。あまりにスムーズに承認が進んでいることが不自然に思えた。
「本当に監査があったのか、それとも形だけか」
木更は実際に会計の監査を行っていない、もしくは表向きの報告しか確認していないのではないか。その疑念が蕨の中で強まっていく。もしそうなら、木更もこの不正の隠蔽に加担している可能性がある。
最後に、蕨は南辺会計担当理事のことを思い返した。南辺は普段寡黙で目立たないが、会計担当という立場上、資金の動きには最も深く関わっているはずだ。もし横領が実際に行われているならば、真っ先に疑われるべき人物だろう。ティーパーティーでの南辺の様子を思い出すと、彼は終始静かにしていたが、逆にそれが妙に不自然に感じられた。
「まるで何かを隠しているようだ」
蕨は、理事長、監査役、会計担当という3人の重要人物がそれぞれ役割を果たしていない可能性を考え始めた。特に南辺の無口さや、理事長が支出の詳細について触れない点、そして木更が監査を形だけ行っているように見える点が重なると、3人が共謀している可能性が浮かび上がってきた。
