理事会が終わり、蕨は資料を持ち帰るとすぐにデスクに広げ、南辺の言葉と資料の矛盾をじっくりと見比べていた。彼は確かに修繕工事が行われたと言っていた。だが、住民の誰もその工事に気づいていない。それに、資料に記載された金額が異様に高すぎる。どこかがおかしいがピースが埋まらない。
 

何度も報告書に目を通し、南辺の言葉を思い返した。彼の答えは確かに理路整然としていたが、焦りを感じた。言葉は表面的には合っているが、その裏にある不安が蕨には見えていた。何かを隠しているのは明らかだ。それも、修繕工事の規模や内容ではなく、もっと根本的な部分だ。


だが、今のところ確実な証拠はない。ただの疑念に過ぎない。しかし、この疑念を解き明かすための手掛かりがあるはずだ。次の理事会までに、さらに掘り下げるべき情報がどこにあるかを考えた。


明日は工事業者を調べてみる。もし本当に工事が行われていたなら、業者側にも記録が残っているはずだ。業者の名前を調べ、実際に連絡を取って確認することに決めた。さらに、住民の中で工事に気づいた人がいないかを直接聞き込みするつもりだ。南辺が何を隠しているのか、その全貌を突き止めるために動き出す必要がある。


毎夜、南辺会計担当理事の心は落ち着かなかった。パソコンの前で新たな架空の取引を作り出し、工事の記録をさらに精密に整える。これまでに引き出した金額を他の口座に移し、監査が入っても残高が正確に見えるように計画を練った。絶対にミスはしない。
 

だが、蕨の動きを完全に読み切ることができなかった。彼が何を次に仕掛けてくるのか、予測がつかない。それが一番の恐怖だった。理事会での質問はまだ序の口だ。次に彼がどこを突いてくるのか、そしてそれにどう対処するのか。南辺は焦りながらも、冷静さを失わないように自分に言い聞かせた。
 

「奴に気づかれたら、すべてが終わる」
 

一つのミスも許されない状況で、深夜まで次の工作を考え続けた。