南辺は会計報告を無事に終え、理事会を後にした。理事長との会話はなんとか切り抜けたものの、内心の不安はますます強まっていた。架空取引の計上はうまくいったが、少しの隙でも見せれば、全てが露見してしまう可能性がある。茂原理事長だけでなく、他の理事や住民からの視線も感じるようになっていた。
 

「気を緩めるわけにはいかない」
 

そう自分に言い聞かせる南辺だが、その不安は簡単には拭えなかった。次の隠蔽工作をどう進めるべきか考えていたところ、エントランスで副理事長の柏と顔を合わせた。柏はいつもフレンドリーな口調で、南辺に話しかけてくる。
 

「南辺さん最近どうです、会計の仕事、うまくいってますか」
 

柏の何気ない問いかけに、南辺は少し驚いたが、すぐに微笑みを浮かべて返事をした。
 

「ええ、まあ順調です。特に大きな問題もなく、すべて予定通り進んでいます」
 

柏はにこやかにうなずきながら、「それは良かった」と応じたが、ふと口調を変えて少し真面目な顔をした。
 

「でもね、最近住民の何人かが、修繕積立金のことを気にし始めているみたいですよ。次の大規模修繕のために、もう少し透明性が欲しいってね」
 

南辺は心臓が跳ね上がるほど驚愕した。修繕積立金、それはまさに彼が多額の資金を引き出して隠蔽している部分だった。焦りを押し隠しながら、彼は普段の落ち着いた口調を崩さずに答えた。
 

「そうですかまあ、住民の皆さんが気にするのは当然です。次回の会計報告では、もっと詳しく説明できるように準備しておきます」
 

柏は軽く笑って肩を叩いた。

 

「頼りにしてますよ南辺さん。僕らも忙しいから、しっかり頼みましたよ」
 

柏との会話が終わり、南辺は再び不安に駆られた。修繕積立金に対する住民の関心が高まっている。これは危険な兆候だ。次の会計報告で少しでも不自然な点があれば、一気に疑念が広がる可能性がある。彼は焦燥感に襲われながら、さらに巧妙な隠蔽工作を考えなければならないと感じた。