数字を操作することは、南辺にとっていつもの作業になりつつあった。机に向かうたび自分を切り離し、ただ淡々と手を動かす。前に進む以外は何の感情も伴わない作業で、違和感は消えていった。
 

彼はパソコンの前に座り、次なる策を考えた。修繕積立金の動きが大きくなると、当然、目立つようになる。そこで彼は、もう一度架空取引を複数組み合わせることを計画した。修繕積立金を使った架空の「防犯強化工事」や「緊急修繕対応」を記録し、金額の増減が自然に見えるように仕立て上げるのだ。住民が求める透明性に応えるための偽装資料も準備し、次回の会計報告でそれを提出する計画を立てた。帳簿上は完璧に整えられているが、実際には何一つ行われていない取引ばかりだった。
 

南辺は、全てが順調に見える状況を維持するため、翌日も新しい資料作成に取り組んだ。さらに、これまでに引き出した資金を別の口座に移し、残高の変動をより隠しやすくするための調整も行った。口座の複数化と資金移動を続けることで、監査が行われても簡単に不正が露見しないように仕組んでいた。

「ここまでは完璧だ、誰にもバレやしない。少しは時間が稼げる。」

 

しかし、心の奥底では、南辺は完全に安心することができなかった。柏や他の理事、さらには住民たちの目が自分に向けられ、次第に疑念が広がっていく可能性がある。自分が何かを隠していると気づかれた瞬間、全てが崩れるのではないかという恐怖が、彼を追い詰めていた。
 

「引き返すことはできない。」
 

南辺は再び自分を奮い立たせ、さらなる工作を進める決意を固めた。彼の外面は、相変わらず完璧な理事会計担当を演じていたが、その裏では見えない歪みが彼の日常を蝕んでいった。