蕨一太は管理組合の会計報告書をさらに詳しく調べた。特に修繕積立金の動きが不自然な部分に注目し、防犯カメラの設置や外壁修繕の名目で大きな支出がされていることに気づいた。これらの工事が本当に行われたのか、彼は全く記憶になかった。
「住民として生活しているのに、そんな工事なんて見たことがない」
蕨の疑念はますます強まり、次第に確信へと変わりつつあった。管理組合の要職にある理事が、横領を行いながら組織的に隠蔽している可能性が高い。だが、この疑いを持ちながらも、証拠はまだ手に入れていない。
「次の理事会で直接聞いてみるしかない」
蕨はそう決意し、理事会に参加する準備を始めた。茂原、柏、木更 誰もが怪しいが、まずは会計担当の南辺に狙いを定めるつもりだった。
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数日後、南辺会計担当理事は理事会に出席するため、会議室に足を運んだ。理事はすでに集まり、蕨一太もその場にいた。蕨は特に目立つことなく席に座っていたが、彼の視線が自分に向けられていると感じた。
「蕨は何かを掴んでいるのかもしれない」
だが、動揺を見せるわけにはいかない。南辺はいつも通りの無口な表情を保ちながら、会議の議題に耳を傾けていた。南辺は自分の資料を机の上に並べながら、内心の焦りを押し殺そうとしていた。汗で掌がじっとりする。普段通りの淡々とした会計報告をこなすはずだったが、どうにも胸のざわめきが止まらない。
「蕨が何かを嗅ぎつけているのか、それともただの杞憂か。わからないが冷静を保つしかない。」
彼の視線が刺さるように感じた。蕨一太が座っている位置から、ずっとこちらを見つめているような気がしてならない。
「それでは南辺さん、会計報告をお願いします」
茂原理事長が声をかけてきた。緊張感が一気に高まるが、外面だけはいつも通りだ。南辺は資料を手に取り、準備していた通りに報告を始めた。
「今期の修繕費についてですが、防犯カメラの設置と外壁の修繕工事にかかる費用が増加しています。これらはマンションの安全を守るための必要な支出です」
言葉が滞りなく出るように心がけたが、内心では蕨が次に何を言い出すのかが怖くてたまらなかった。茂原理事長も、木更会計監査役員も特に異議を挟まなかった。
これで安心できるかと南辺が思ったその時、蕨一太が静かに口を開いた。
