数日後、蕨は住民たちにティーパーティーを企画した。あくまで親睦の場として皆を集め、そこで最近の管理組合についての意見交換をしようという名目だ。これなら、住民たちの自然な反応を見ることができる。「これで何か掴めれば」蕨は自分の中でわずかに期待を抱いた。
ティーパーティー当日、数名の住民たちが集まった。蕨はまず軽い話題から始めた。「皆さん、お忙しい中ありがとうございます。最近、管理組合について話す機会がなかったので、こうしてみんなで集まって意見交換できたらと思い、企画しました。」蕨はティーパーティーの冒頭で軽く挨拶し、和やかな雰囲気を作ろうと心がけた。
住民たちは一様に頷き、集まった人々はお茶を飲みながら談笑し始めた。蕨は焦らず、住民たちの様子を観察しながら、会話の中に少しずつ「管理」の話題を織り交ぜるタイミングを伺っていた。
「最近、大規模修繕が話題になってますけど、皆さんはどう思ってます」
住民たちは最初、言葉を選びながら少し戸惑った様子だったが、一人の女性が意を決したように口を開いた。
「そういえば、去年の修繕費が急に増えた時期がありましたよね。あれ、結局どういう理由だったんでしょうか。全然説明がなかった気がするんですけど」
「それだ、まさに核心、それを待ってた」
蕨は心の中で頷いた。住民の中にも、管理組合や理事会に対する不信感が少なからずあることを確認できた瞬間だった。そこで、蕨はその女性の言葉を拾い上げ、さらに話を広げた。
「あの時の説明はあまり詳しくありませんでしたね。皆さんも、もっと詳しい情報を知りたいと感じているのではないでしょうか」
他の住民たちも、その話題に興味を示し始めた。次第に、管理費や修繕費について語られ、管理組合に対する不満が噴出し始めた。特に、多額の修繕費が突然発生した理由については、誰も納得していなかった。
修繕工事の費用がなんで増えたのか、なんで詳細な説明なかったのか、別の住民も不満を口にした。
蕨はその言葉に深く同意するようにうなずきながらも、心の中では次のステップを計画していた。住民たちの不安や懐疑を確認できた今、次にすべきことは管理組合の内部情報に踏み込むことだ。彼は次の行動を考えた。
横領が本当に行われているなら、会計に深く関わっている人物はその兆候に気づいているだろう。その人物は会計を最初に処理しているかだ。それが鍵になる。
南辺会計担当理事。住民たちからの信頼が厚く、几帳面な性格だと評されている。普段の姿勢からは不正など考えられない人物かもしれないが、彼こそが管理組合の会計を直接扱っている。もし何か不正が行われているなら、最初にその兆候を掴むのは会計担当理事のはずだ。それにもかかわらず、修繕費の異常に対して何の指摘もない。
しかし、蕨は同時に、南辺だけが関与しているとは限らないことにも気づいていた。理事長の茂原、会計監査役の木更、さらには副理事長の柏も疑わしい。管理組合の重要な決定には理事全体が関与しているはずだ。蕨の頭の中では、理事たちが共謀しているシナリオが浮かび上がっていた。
