ティーパーティーが終わり、蕨一太は次の一手を考えながら、自宅のリビングに腰を下ろしていた。住民たちの反応は予想以上に良かったが、それだけでは横領の証拠にはならない。これからは、個別にアプローチして、もっと深く話を聞く必要がある。
彼は、信頼できそうな住民や理事たちを選び出し、少しずつ情報を集める計画を立てた。まず最初に話を聞く相手として選んだのは、副理事長の柏だった。彼は長年マンションに住んでおり、理事会の中でも比較的中立的な立場を保っている人物だ。
翌日、蕨は柏に声をかけてみた。
「柏さん、ちょっとお時間いいですか?最近、管理組合のことについて気になることがあって」
柏はやや驚いた表情を見せたが、すぐに応じた。
「もちろん。どうしました」
蕨はなるべく自然に切り出す。
「実は、この前のティーパーティーで話題に上がったんですけど、過去の修繕工事の費用が突然増えた時期があったみたいなんです。それで、何か特別な事情があったのかなと思って」
柏は少し考え込んだ後、息をついた。
「確かに、あの時は不自然でしたね。特に理事会の中でもその点についてはあまり議論されていなかったし、私も何か釈然としない気持ちが残っていました。」
蕨はさらに踏み込んでみる。
「もしかして、何か組合員に公表されていないことがあったとか、知っている範囲で教えてもらえませんか」
柏は目を伏せ、しばらく沈黙が続いた。しかし、やがて重い口を開いた。
「正直、私も少し疑っていました。でも、理事長の茂原さんが強く押し進めていたんです。彼が何かを知っているのか、もしくは黙っているのか」
蕨は柏の言葉に耳を傾けながら、自分の考えが少しずつ形になっていくのを感じた。理事長の茂原が何かしらのカギを握っている可能性が高い。だが、確かな証拠を掴むには、もっと具体的な情報が必要だ。
「ありがとう、柏さん。これからもう少し調べてみます。もし何か分かったら、また相談させてもらってもいいですか」
柏は頷き、蕨を見送った。蕨一太は、次は理事長の茂原にアプローチするべきだと確信した。彼の言動が横領事件の真相に迫る手がかりとなるかもしれない。
