数回の横領が何事もなく成功したことで、南辺会計担当理事の中に生まれたのはもっと大きな額を動かせるという自信だった。株価は停滞で大きな資金が必要だったため、今度は100万円を引き出すことにしていた。だが、彼の隠蔽工作が進む中、理事会の打ち合わせ中に茂原理事長がふとした言葉を口にした。
 

「最近、口座の動きが増えているように見えるな」
 

その瞬間、南辺は一気に凍りついた。まさか理事長が口座の異常な動きに気づいたのか。狼狽しながらも、南辺は必死に冷静を装った。普段は寡黙で、必要最低限のことしか話さない南辺だが、この時ばかりは反射的に言葉が口をついて出てしまった。
 

「理事長、それはおそらく一時的なものです。最近、支払いが重なっていたので。まったく問題はありません。むしろ、次の修繕計画に備えて資金を効率的に運用しているだけです」
 

普段は淡々と報告する南辺が急に説明を始めたことで、周囲の理事たちは少し驚いた様子だった。だが、茂原理事長は特にそれ以上追及することなく、うなずくだけにとどまった。
 

「そうですか、なら良いんだが」
 

理事長の言葉に南辺は胸を撫でおろしたが、内心では焦りが一層強まっていた。これまで完璧に隠してきたはずの不正が、わずかながらも誰かに気づかれ始めたのかもしれない。その可能性が南辺を一層神経質にさせた。

 

「次はもっと慎重にやらなければ」