吹き上がらない/ハイゼット | 自動車整備士駆け込み寺 喝っ!

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ヤフーブログからの引っ越しです。

ある回転から吹き上がらないという平成23年式ハイゼット(S201P、KF-VE)が同業者から持ち込まれた。

 

依頼者の工場でもいろいろと点検をしており、プラグは新品に交換済み。

 

エンジンの基本点検を行ったかと聞くと、エンジンは外注でオーバーホール済なので問題ないだろうとのこと。

 

なぜ、オーバーホールしたのかと聞くと、そもそもはオイル消費で入庫し、外注でエンジンのO/Hを行い、ピストン、ピストンリング、タイミングチェーンやガイド、バルブ周りを交換したとのこと。

 

もちろん圧縮圧力は測定済みとのこと。

 

オーバーホール後からのトラブルかと聞くと、そうだと言う。

 

当然、オーバーホール後のトラブルなので、オーバーホール自体に原因があるか、もしくはエンジンを脱着した時に原因があると考えられる。

 

 

症状からは特定のミスとは思えなかったが、念のため、吹き上がらない状態でパワーバランステストを行ったが、やはり特定シリンダのミスではなかった。

 

 

症状はある回転で頭打ちという感じなので、燃料不足か排気系の詰りが疑われるのでまずは燃料不足の点検をすることにした。

 

吹き上がらない状態でパーツクリーナを吸わせてみたが、それでも吹き上がらないことから燃料不足でもないことがわかった。

 

排気系の詰りかもしれないと思いO2センサーを外してみたが変化はなかった。

 

排気系の詰りでもなく、燃料不足でもない。

 

残るは点火系だが、パワーバランステストの結果からは、火花が飛んでいないとは思えない。

 

 

 

残るはタイミングの狂いである。

 

とりあえずデーターモニターを調べるとおかしなことに気が付いた。

 

不具合発生時、エンジン回転は3200~4000回転間で変動していたのである。

 

しかし、体感的にエンジン回転はある回転数でほぼ一定であり、800回転も変動しているとは思えなかった。

 

こうなるとクランク角センサーの点検が必要ということでオシロスコープで波形を調べると、次のような波形が現れた。

 

 

この波形が正しいのかどうかわからないが、おかしいような気がする。

クランク角センサ用のシグナルロータ―を調べると次のようになっており2か所の欠歯部があった。

 

 

となると、やはりおかしい。

 

信号はピックアップコイルの信号だが、一か所が明らかに出力電圧が低い所(黒丸)がある。

(赤丸と青丸は気筒&上死点判別用の欠歯部)

 

 

これはセンサーの不良ではなく、エアギャップの問題だろうと思いローターを点検することにした。

 

クランク角センサーを外し、クランクシャフトをレンチで回転させながら取付穴からシグナルローターを見ると、一部で傷がありローターが歪んでいるように見える箇所があった。

 

 

(赤点とローターが徐々にずれていく。MAXは動画開始30秒くらいのところ)

 

 

 

動画開始直後は、赤いペイントとシグナルロータはほぼ同じ位置関係にある。

 

 

 

しかし、26秒くらいからローターは赤いペイントより上方向にズレはじめ、凹凸のない欠歯部の初めくらいで最大にズレ、欠歯の中間くらいで元の位置に戻っている。(動画開始36秒くらいで元に戻る)

 

 

最もずれている個所(30秒くらい)

 

 

たかだか2mmのような気もするが、元々エアギャップは0.5mm程度のはずなので、このくらいの歪であっても影響は出る可能性は十分にある。

 

エンジンをO/Hした時のミスなのか、エンジンを脱着するときのミスなのかはわからないが、どちらかで変形させたものと思われる。

 

部品を調べると、シグナルローター単体ではなくクランクシャフトASSYということだった。

 

あとは依頼者の工場とO/Hした工場での話し合いということになったので、これで納めることにした。

 

後日確認すると、部品を交換すると正常に戻ったそうである。