国家公務員の災害補償制度にみる官民格差 | 倉敷市の社会保険労務士・行政書士 板谷誠一 雑多な日記

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社会保険労務士・行政書士として仕事している板谷誠一の雑多な日記です。私は岡山県倉敷市に事務所を構えています。

最近国家公務員、地方公務員、民間企業の災害補償制度を調べる機会があり、根拠法律の条文を読んでいたが国家公務員だけ違う部分があることがわかった。


労働者災害補償保険法(昭和二十二年四月七日法律第五十号)(抄)
十二条の八  第七条第一項第一号の業務災害に関する保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
(以下、略)
○2  前項の保険給付(傷病補償年金及び介護補償給付を除く。)は、(略)
補償を受けるべき労働者若しくは遺族又は葬祭を行う者に対し、その請求に基づいて行う。

地方公務員災害補償法(昭和四十二年八月一日法律第百二十一号) (抄)
(補償の種類等)
第二十五条  基金の行う補償の種類は、次に掲げるものとする。
 (以下、略)
2  前項各号(第三号を除く。)に掲げる補償は、当該補償を受けるべき職員若しくは遺族又は葬祭を行う者の請求に基づいて行う。

国家公務員災害補償法(昭和二十六年六月二日法律第百九十一号)(抄)
(補償の種類)
第九条  補償の種類は、次に掲げるものとする。
(以下、略)


簡単に言えば、労働者災害補償保険法と地方公務員災害補償法では、請求に基づき補償を行うとされているが、国家公務員災害補償法では、請求に基づかなくても補償を行うということである。

この給付方法の違いは、例えば以下のとおり不支給の場合に訴訟を起こす方法に現れてくる。

労働者災害補償保険法、地方公務員災害補償法:抗告訴訟
国家公務員災害補償法:当事者訴訟


それぞれほとんど同じような補償内容であるにもかわらず、国家公務員だけなぜ請求に基づかなくても支給するのが疑問に感じたが、以下のHPにその理由と思われることが書いてあった。

災害補償制度研究会開催状況
http://www.jinji.go.jp/saigaihoshou/kaisai.htm

 第4回 議事概要
 http://www.jinji.go.jp/saigaihoshou/gaiyo04.pdf

上記から抜粋すると、以下のとおりである。

 使用者責任に基づく補償ということが災害補償制度の原則であることからすれば、自ら災害を探知して認定するという職権探知主義が本来の姿であるといえる。民間と地方公務員の場合は、保険制度や基金制度をとっているため、第三者が補償責任を果たすこととなって、本来の姿ではない仕組み(請求主義)とならざるを得ない明確な理由がある。国家公務員の場合は保険制度や基金制度ではなく、国が自ら直接補償を行うとすると、なぜ職権探知主義ではいけないのかという疑問も出てくる。

労働基準法で規定された、使用者の災害補償責任の履行を確保するために制定されたのが労働者災害補償保険法であるが、大原則は使用者が災害補償責任を履行することにある。国家公務員の場合は、保険制度を導入せずに自ら災害補償を行っているということである。

確かに、労働者災害補償保険法の休業補償給付は、労働者が業務上による負傷や疾病による療養のため労働することができず、そのために賃金を受けていないときに支給されるが実際には4日目からであって3日間は労働基準法により使用者が休業補償する必要がある。この休業補償は当然労働者から請求をしなくても当然に受けられるものであり、使用者は積極的に休業補償しなければならない。(実務上、僕も使用者にそのように助言している。)

また、地方公務員についても、以前は各地方公共団体が自ら災害補償を行っていたが、自治体間で補償の認定や補償の水準に差異があり、それらを統一するために、地方公務員災害補償法が制定されたようである。

地方公務員災害補償基金
http://www.chikousai.jp/index.htm
→沿革と役割

確かに、法律番号を見ると昭和42年に制定されており、労働者災害補償保険法や国家公務員災害補償法が、昭和20年代に制定されたことを踏まえると歴史は浅い。

ちなみに、先ほど紹介した災害補償制度研究会は、国家公務員の災害補償の原則である職権探知主義の問題点等を洗いだし、今後の制度の合理的な運営方法や災害補償事務の実施体制の在り方等を検討するために開催され、報告書もホームページに公開されている。報告書では請求主義への転換に向けて制度の見直しを行うべきと結論づけられている。

ただ、請求主義を導入するにあたって様々な課題があって制度設計が難しい。労働者災害補償保険法と同じ制度にすればよいと結論付けるわけにもいかないだろうが、国家公務員が労災(公務災害)により十分な補償が受けられるためのよりより制度設計を望む。

官民格差と言われて久しいがこの分野については本当に官の方が優遇されているのか僕は非常に疑問に感じている。
霞ヶ関の本省の職場で(おそらく過労)自殺した事例や過重労働により死亡した事例を知っているが、公務災害として認定されたのだろうか。そもそもそのような災害が起こらないように国は積極的に対策すべきなのだろうが、この分野については、官(特に霞ヶ関の本省)の方が対策が進んでいないと私見ではあるが感じている。