現在、原辰徳氏の株価が急上昇中である。
長嶋・王・野村を戦後直ぐに活躍した第2世代だとすれば、原氏は第2世代が監督としてグラウンドに立っていた頃に薫陶を受けた第4世代とでも言うべきか。
言うまでもなく、第3世代は打倒・第2世代でアイデンティティーを揺るぎないものにした星野氏や田淵氏等である。
原辰徳氏の評価はおそらく今後の歴史が判断するだろうが、V2としての評価、或いはWBCで見せた柔軟な姿勢は間違いなく高評価の対象となる。
そこには、既成概念にとらわれることなく、何を目標とし、何を成果とし、何に価値を置き、何を貴ぶか、その姿勢を窺い知ることが出来る。
原氏の評価がどうしても解れてしまうのは、彼が巨人軍の監督だからである。
あれほどの戦略がいるからこそ勝てて同然(WBCも当然、そうであろう)、負けたら罵倒どころか、権力者から人事異動と評して地位すら奪われてしまう。
しかし、組織の管理者として原氏の評価はやはり、高く見ることは出来る。
WBCにしてもそうだし、或いはV2での若手戦力の抜擢にも見て取れる、状況に即した柔軟な采配と人材の配置。
かつグラウンドに立つ選手が主役であり、監督の仕事は主役の能力を如何に引き出すかという管理職の立場を理解した采配。
原氏自身のブログを見ても、それが見て取れる。
原氏自身は恐らく彼自身が気付いているか解らないが、管理職としての理想を備えている。
それはすなわち選手はスペシャリスト、監督はマネジメントとして身を立てる、ということである。
よく「名選手、名監督足り得ず」としたり顔で話す解説者がいるが、彼らは彼ら自身、その理由が理解出来ていないはずだ。
しかしドラッカーの組織論をもってすれば、スペシャリストがスペシャリストとして組織を率いるからこそ、名監督足り得ないと私は結論付けている。
ただ、原氏はその点を弁えている。
何故か? それは周囲の人間は否定するかもしれないが、原氏の言動の節々から「野村克也氏の影響」を見て取ることが出来る。
原氏自身、野村氏の教育を受けてはいない。
野村氏の采配を、原氏自身は体験していない。
しかし、原氏は野村氏の著書を巨人軍の寮に置くほど、彼に心酔している。
それはおそらく、1つの理由があると見ている。
野村氏の評論家時代、原氏の打撃上の欠点を見抜き、週刊誌上でそれを披露し、原氏に決起を促したことがある。
原氏は素直であり、若大将の名に恥じない天真爛漫で闊達な人物である。彼からすれば、野村氏のような、根暗でブツクサ言いながら、欠点をズバズバ見抜き、選手を監督の理論と戦術に基付いて導く人物は初めて出会ったのではないか。
そこで感銘を受けたのではないか。
事実、原氏がNHKの評論家時代、97年のヤクルト優勝時、原氏は「弱者の戦略」を強調し、考える野球について熱く語っていた。
巨人軍と「考える野球」は全く当て嵌まらないかもしれないが、原氏は少なくともこうは思ったはずだ。
「巨人軍ほど、外部からの積極的な補強で成り立つ組織は無い。現状を変えないのであれば、外部からの人材に打ち勝つしかドラフト組には方法は残されていない。ドラフト組と移籍組にチャンスを与える時、ドラフト組はどうすれば移籍組に勝てることが出来るか? 考えて勝つ方法を生み出すしかない。では監督は何をするべきか? ドラフト組に対してチャンスを与え、勝つための方法を考えたプロセスを如何に評価し、勝ち残った選手を如何に登用するか、ではないか」
どちらかと言えば、原氏は王氏や長嶋氏のような調子の良い人物を登用し、ひたすら勝ち続けることを目指すより藤田氏のような勝つことを目標にし、そこに至るプロセスを管理したがるタイプではあるまいか。
自然とプロセス重視の野村学派にシンパシーを感じたとしても、不思議ではない。
今年の原監督の、残した結果に注目したい。
彼は絶対に口に出す筈である。
考えて野球をしなければいけない、と。