どのようなプロジェクトにも、技術的な課題は付き物である。
大抵のプロジェクトは、技術的にという接頭尾を付ければ、ある程度の説得力を持つ。
それはすなわち、マネジメント不足が原因なのではなく、エンジニアの技量の問題である。
技術的に優れない人間が集まった場合、どれ程マネジメント担当者が優秀だったとしても、世間の度肝を抜く製品は誕生しないのではないだろうか。
例えば、チェーン展開している居酒屋。
マニュアルは豊富かもしれないが、それでも開店当初は大抵、他店からのヘルプが入る。
それは人手が足りないのでは無く、経験不足を補うためである。
マニュアルは経験不足の人間を助けるが、それでも経験を付与することは出来ないだろう。
何度も繰り返すことになるが、組織とは目的を持った1つの集団である。
ここで気を付けなければいけないのは、集団の構成が述べられていないことである。
優れた技術を持っていても、或いはズブの素人でも、目的を持って集まっていたとしたら、組織となる。
現在、製造業では団塊の世代が大量引退することで、技術継承の危機を迎えているという。
これもまた、組織ならではの問題である。
例えば、9人の人間がいる。
彼らはある目的を持って集まった集団であり、組織となって常に問題解決に当たってきた。
9人中、2人はベテランである。
残り7人は素人である。
7人のうち、3人は20代、3人は30代、1人は50代である。
ベテランの2人は70代であり、遅かれ早かれ引退することが決まっている。
マネージャーである貴方は、どのような戦略を持って、この組織の「問題解決」に当たるべきか?
様々な考え方がある。
50代の素人をクッションに置き、20代、30代に技術継承を促す。
或いは20代3人と30代3人にそれぞれ1人ずつベテランを配置し、技術継承を促す。もちろん、50代の素人は先を見ても短いので解雇する。
ただ、ここでどうしても考えなければいけない事は、マネジメントである貴方自身が、恐らく人数に含まれなかったことである。
マネジメントである貴方自身が、なぜベテラン―スペシャリストである70代の2人から教えを乞うことを考えなかったのか。ここにマネジメントとスペシャリストの違いが出てくる。
スペシャリストは、グラウンドで活躍する存在である。
長嶋茂雄のように天真爛漫で、溌溂としたプレーをし、時に全員が息を飲むような闊達な動きを見せる。
スペシャリストに、マネジメントが勝る点はあまりないかも知れない。
しかし、スペシャリストはマネジメントを行う人間の下に配置される。
長嶋茂雄の上には、川上哲治が存在した。
では川上氏は長嶋氏にとってどんな存在であったのか?
判断と指示を行なう存在だったのではないか。
長嶋氏にベストパフォーマンスを求める、管理者だった。
つまり、スペシャリストとは専門的な知識・技術を使う仕事に従事する人間を指し、マネジメント(マネージャー)とは判断と指示を行なう管理の仕事に従事する人間を指す。
スペシャリストは、マネジメントされる側の人間である。
そして、マネジメントはスペシャリストによって成果を生んで貰う存在である。
そう定義すれば、プロジェクトマネジメントにおいて、如何にしてスペシャリストを扱えば良いかは一目瞭然である。
少数精鋭で、技術力に乏しい組織ほど、スペシャリストを重宝する。
その時起きてしまうのが、マネジメントがスペシャリストに管理すら移管してしまうケースである。
しかし、こういった場合、大抵は良い結果を生まない。
判断と指示を行う系統と、知識と技術を使う系統は、違うからである。
従って、スペシャリストが意見したとしても、マネジメント層がそれに従う場合、それは追従ではなく、自身の判断と責任で決断を下さなければいけない。