人を育てる。
これって、難しいですよね。
優れた名経営者が絶対に行き着く先が「人材育成」だと思うのですが―松下幸之助しかり、中山素平しかり―、人を育てることは事業を育てることよりも難しいのではないかと思います。
事業の育成は究極的に言ってしまえば、利益を出せば10人中7人は「成功」と言ってくれると思います。そして残りの3人は「失敗や」とは言わないでしょう。
では人材の育成は、何を出せば「成功」と言ってくれるのか。
『利益を出す事業を育成した人間』にまで成長すれば「成功」なのでしょうか。
しかし人材の育成の「成功」が、利益を出す事業を育成した人間だけに限定するというのは、何だか悲しいです。
じゃあ、世界で活躍する?
或いは、みんなに元気を与える?
それとも、歴史に名を残す?
色々とあるかと思います。
禅問答かもしれませんが、人材の育成の「成功」とは、10人中1人でも「こいつぁ凄いや!」と思ったら成功でしょうし、残りの9人が「こいつぁダメだ!」と思えば失敗なんだと思います。
つまり「人材の価値は、人によって捉え方が違う」からこそ、「失敗」も「成功」も人によって違う―だから人材育成は面白いし、名経営者も面白みを感じて『行き着く』のではないでしょうか。
例えば、阪神から南海に移籍した江夏。
阪神タイガースのエースとして活躍したのに、一匹狼的な行動が目に余り「失敗」の烙印―つまり阪神タイガースにはいらない、という意味を込めて「放出」されています。
しかし南海では大活躍しました。
その後、広島、日本ハム、西武でも活躍して「優勝請負人」という、阪神にいては絶対に背負えなかった名前まで背負われました。
江夏にはスピードボールと絶妙なコントロール、そしてキレを持っていました。
そして野球に強い拘りと、それを理解して貰えないならどんな人間も受け付けないという度胸も持っていました。
江夏を「操縦」出来ない奴は「なんだ、こいつは! ダメだね」と言うでしょうし、江夏を理解し「操縦」出来る奴は「野球に拘れる、素晴らしいプロフェッショナルだ」と言うでしょう。
確かに江夏にはダメなところもあったと思います。
しかし、凄いところもあった。
つまり、ダメなところを見てしまえば「失格」だし、良いところを見てしまえば「成功」なんだと思います。
正解や基準値のある問題ではなく、数値で測れない「人間」だからこそ、失格も成功も人にとっては見えると思います。
むしろ失敗も成功も持っているから、人間なんだと思います。
究極的なことを言ってしまえば、最近は「人材育成」というのはその人の持っている所を技術的に伸ばすことが出来れば良いのかな、とも思うようになってきました。
心を入れ替えて、「それも、また良いじゃないか」と受け入れる器を持つようになってから、出来るだけ相手の良いところを見るようにしています。
提出資料を確認しない、チェックをしない、ホウレンソウが出来ない、すぐに手を抜く。
けど、仕事を捌くスピードは誰よりも早い、飲み込みは誰よりも早い、素直な心を持ちミスは直ぐに訂正出来る。
良い所を見ますか。
悪い所を見ますか。
人によっては悪い点は直すように指示し、良い点は褒めるかと思います。
でも、どうでしょう。
本当にそれが出来ますか。
お客様に提出する大事な見積もりを、間違えて下一桁多く0を付けてしまい、仕事を失注してしまった。
そんな時、思わず叫んでしまいませんか?
「なんで、こんなことをしてしまったんだ!」
「いい加減に、そのチェックをしない、手を抜く癖を直したらどうだ!」
「どれだけ早く出来たとしても、ミスがあったら価値無いんだぞ!」
もし、彼の上司だったとしたら、彼の相棒にどんな人材を選びますか。
僕ならば、用心深く、何度もチェックを行い、直ぐにホウレンソウを行って、なかなか手を抜かなくて、でも用心深いから頑固で、何度もチェックを行うから仕事のスピードが遅く、何度もホウレンソウを行うから自分の頭で考えない癖が付いて飲み込みが遅い人を選びます。
お互いが、お互いから学び、2人でやる仕事が3人分にも4人分にもなる。
これが『人材育成』だと、最近は思うようになりました。
えぇのではないでしょうか。
悪いところがあっても、良いトコだけ見てやれれば。