「夕べ、八幡様の社務所へ筆を百本届けた帰り
風体も顔つきも悪いごろつき浪人者が、三人でヒソヒソやるのを聞いている内に
危なく心ノ臓が止まりそうになった
一番強そうな浪人がこう言っていたんだ
『筆屋の先代を海に沈めて五十両とは安過ぎた
あと五十両せびっても、どこからも文句は出まいて
さあ、これから浅川甚兵衛の家へ押しかけて強談判だ』
…番頭さんに言ったらビックリして、木屋の別荘にお泊まりのお嬢様の所へすっ飛んで行った
とにかく、浅川甚兵衛は悪い奴だ!」と説明し
武蔵と小次郎の前にガバッと平伏したかと思うと
「どうか、この忠助に、棒使いの免許皆伝、虎の巻を授けて下さい」と願い出ているトコへ
袴姿で鉢巻を巻き、太刀を袖にくるんだ、木屋まいさんと筆屋乙女さんが駆け込んで来て
乙女さん(鈴木杏さん)は「父の恨みをこの刃に込めて、せめて一太刀でも
あの浅川甚兵衛めに浴びせてやりとう存じます
二刀流をお教え下さいませ!」と武蔵に頭を下げ
まいさん(白石加代子さん)は、小次郎に向かって
「及ばずながら、このまいも宝蓮寺禅仲間の一人として、乙女殿の助太刀を致します!
あなた様の巌流の極意を、このまいにお授け下さいまし!」と必死に頼むという慌ただしさ(汗)
忠助さんが「柳生のお殿様もお籠りとかで、このお寺には剣術の名人が三人もいなさる
三人から一時に習えば、三倍早く上達する勘定だ」と都合よく計算するのを
小次郎が「剣術は算術ではない」と諭したあと
「その前に、気持ちを高ぶらせたまま刀を持つのは危ないことなのだ
カッとなって抜いてしまうことがよくあるのでな」と話し
まいさんと乙女さんが抱えていた刀を取り上げ、平心さんに渡すと、乙女さんから事情聴取
鎌倉八幡宮で2年に1度開催される「聞き茶」大会で
乙女さんの父親は、25歳での初出場以来、10回連続で優勝
浅川甚兵衛は、弟子の数五百という茶の湯師範代を受け継いでいたものの
万年2位に甘んじている内に弟子は激減し、今や3人いるかどうか状態となり
一昨年の11度目の対決前に、ごろつき浪人を雇い
乙女さんの父親を事故に見せかけて暗殺した模様(汗)
…で、忠助さんが「四十年前、筆屋の裏木戸で泣いていた赤ん坊を抱き上げて
忠助というステキな名前を付けて下さった旦那様の仇を討ちたいのだ!
刀の使い方を教えて下さい!」と改めて武蔵に平伏し
武蔵から「刀を持ったことがあるのか?」と訊かれると
「ナタなら毎日持っているぞ!」と胸を張るも(笑)「ナタと刀は、ずいぶん違うぞ」とバッサリ(笑)
まいさんも、小次郎にすがりつきながら
「卑しい猿楽師上がりの木屋の後添いよと、世間から白い目で見られていた私を
筆屋の先代ご夫婦は、蔭になり日向になり励まして下さった
今の楽な隠居暮らしも、みな亡き夫と筆屋先代ご夫婦のおかげです
とすれば、これは私のための仇討ちでもございます
飛び交う燕を斬る技を、今すぐご伝授下さいませ!」と懇願
小次郎が「刀を扱ったことは…ないな」と言うと
「カツオなどは上手にさばきます!」とまいさん(笑)
「包丁と刀は、一緒にはならぬ」という小次郎の言葉にも
「どちらも同じ刃物ではございませんか」と粘り
乙女さんが「こんな心強い味方が二人もいて下さいます、もはや何を恐れることがありましょう
それに、父の仇の知れた日に、剣の達人が二人も…って、宗矩殿の猛アピールに気づき(笑)
三人もおいでになるのは宝蓮寺様のおかげ、仏様のお導きです」と話すと
平心さんまでもが「大檀那の一大事は、この平心にも一大事でございます
助太刀の助太刀をさせて下さいませ!」と言い出し
ついに、沢庵様から「かーつッ!」の声が…(汗)
「涅槃経には『悉有仏性(しつうぶっしょう)』とある。ありとあらゆるものが仏になるのだ
従って、殺生はいかん!命あるものを殺めてはいかん!」と諭すと
宗矩殿も「沢庵御坊にならって、柳生新陰流の極意を説こう
免許皆伝に際して、秘かに伝授される奥義の中の奥義…
ある時、柳生新陰流の開祖、柳生石舟斎が言った『兵法の争いごと、無用』
別の日にはこうも言った『兵法は能なき者のわざなり』と…
また別の日にはこう諭した『剣術は我も打たれず他人打たず無事に行くことこそ妙と知れ』と…」
これが「将軍秀忠様やお世継ぎの家光様に、いつもお教えしている柳生新陰流の極意」であり
「『争いごと無用』とは将軍家の、徳川の御代のご方針ぞ」と明かすも
「それでは何故、武士に太刀を帯びることを許しておいでなのですか?」と武蔵
小次郎も「それはつまり、万一の場合には抜いてもよいということではありませんか?
(『初めて意見が合ったな』という武蔵の言葉はスルーして(笑))
無礼を承知で申し上げる。柳生新陰流は弱虫の剣法です!」と言うと
武蔵も「腰抜け剣法と言ってもいい!」とハゲ同
もっとも、宗矩殿は、そうした武士としての矜持に根差した反発には慣れっこなのか?
「世上で流行の俗謡に、こんなのがあったな
『信長が搗き、光秀がこね、秀吉が丸めたる天下餅を、家康殿がゆっくりと食う』
…的を射ておるぞ、これは。この美味しそうな天下餅を皆でゆっくり味わう時が来たのよ
応仁の大乱からこっち、百五十年も続いて来た
『殺るか殺られるか』という酷たらしい世の中が終わったのだ
そして『四海波静かにて』…という新しいご時勢が
我が柳生新陰流の『争いごと無用』を選んだ訳だ」と悠々と説明するも
「そんなことでは、とても国は治まりますまい」と武蔵
「ここに父親を騙し討ちにされた人がいる
それを見ないふりしなさいというのが、柳生新陰流ですか?」と反論
小次郎も「困っている人に、ささやかにであっても手を貸す
それが剣を持つ者の務めではないか」と援護し
「悪を悪のまま放っておいて、何が政治ですか!」「そんな餅のどこが美味しいのか!」などと
天敵同士の二人が連合を組んで攻め立てると
「目の前の事実を振りかざして、膝詰めで来られると、ちょっと弱いのです…」と宗矩殿(笑)
「つまり『争いごと無用』は、いわば追い求めるべき理想であって
天下万民の法としては、まだ完成の途上にあるのでな…」と、たじたじになったのを見て
今度は沢庵様が、まいさんと乙女さんに
「お二人は昨日、なんと言っておられた?
『斬り合いはお止め下さいませ』と訴えておられたのではなかったか?」と訊ねるも
乙女さんは「昨日の私は、お月様のように、ただ大人しく光っているだけでした
けれども、父の仇が判った今日は、燃えたぎる日輪でございます」と答え
まいさんも「私も、ただの隠居から羅刹女になっております!」とヤル気満々(苦笑)
復讐に高ぶる二人の気持ちを鎮めるのは容易ではないと見て取った宗矩殿が
「よろしい、こういたそう。浅川甚兵衛を懲らしめてもよい
…が、しかし、他のやり方はないものか?
例えば、ここにいる二大剣客に道場破りをして貰うというのはどうじゃ?
すると、奴には門弟が寄りつかなくなる。つまり、じんわりと干乾しにする訳だ
この方が堪えるのではないか?」と提案したところ
「どのような手も、もう遅うございます。果たし状を突きつけましたから」と乙女さん
絶句する宗矩殿に、忠助さんが「ここへ来る前に、お嬢様のお言いつけ通り
『一刀正伝浅川流道場』と書いた看板に貼りつけて来た」と追い討ち(苦笑)
宗矩殿が「うーむ、早まったな!」と頭を抱えたトコで
小次郎が「こうなったからには、やるべきことをやる、それしかないでしょう
命懸けの素振りを一万回、手の豆を潰すこと五、六度
その頃には、太刀筋というものが、何となく呑み込めるようになる
果たし合いは、いつだ?」と前向きに対処しようと訊ねると
「明後日の朝、辰の正刻でございます」と、まいさん
「その場所は?」という武蔵の質問には
「源氏山の山頂ヶ原に致しました」と答え
武蔵が「無茶だ!我らと同じ時、同じ場所ではないか!」と驚き
小次郎が「いったい何を考えているのか、あなた方は!」と責めると
まいさんは「こうしたことには慣れておりませんので
小次郎様の果たし状をお手本に致しました」と種明かし(笑)
武蔵と小次郎が黙り込んでしまい、沢庵様は忠助さんに
「浅川道場の看板に貼ったという果たし状、今すぐ取り返して来なさい!
朝寝坊をして、まだ読んでいないかも知れないからな」と指示するも
小次郎が「お待ちを!果たし状は言葉と同じ
いったん外へ出したからには、もう取り消しは効きません!」と引き留め
武蔵も「果たし状の取り消しは、御仏に誓いを立てて大徳寺長老にまで登られた沢庵様が
その誓いを取り消して、巷の遊女屋の亭主になろうとするようなものです!」と説明
沢庵様も宗矩殿も「もう勝手にせい!」「好きにすればよい」と匙を投げるしかなく
ここから、巌流佐々木小次郎による、ずぶの素人への、まさかの剣術指導が始まります(笑)