ゆうすげびと 立原道造
かなしみではなかった日のながれる雲の下に
僕はあなたの口にする言葉をおぼえた
それはひとつの花の名であった
それは黄いろの淡いあはい花だった
僕はなんにも知ってはゐなかった
なにかを知りたく うっとりしてゐた
そしてときどき思ふのだが 一体なにを
だれを待ってゐるのだらうかと
昨日の風に鳴っていた 林を透いた青空に
かうばしい さびしい光のまんなかに
あの叢に 咲いていた・・・・・さうしてけふもその花は
思いなしだか 悔いのやうに――
しかし僕は老いすぎた 若い身空で
あなたを悔いなく去らせたほどに!