『四畳半タイムマシンブルース』原案/上田誠 著/森見登美彦 | 京都市某区深泥丘界隈

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綾辻行人原作『深泥丘奇談』の舞台、京都市某区深泥丘界隈を紹介します。内容は筆者個人の恣意的な感想に過ぎず、原作者や出版社とは関係ありません。

 「京都音楽散歩」のテーマで書かせていただいた「出町柳パラレルユニバース」ASIAN KUNG-FU GENERATIONのブログを加筆修正し、改題させていただきました。諸般の事情により、「京都音楽散歩」は終了させていただきます。「京都市某区深泥丘界隈ミステリ散歩」は続けさせていただきますので、引き続きよろしくお願いいたします。

 

 『四畳半神話大系』のところでも少し触れましたが、『四畳半タイムマシンブルース』の原作は、上田誠先生の舞台脚本を原案とした、2020年の森見登美彦先生の小説です。お話は「主人公の「私」が下宿する、京都は出町柳にほど近いアパート「下鴨幽水荘」で唯一のエアコンが、リモコンにコーラがこぼれてしまい動かなくなり、翌日、25年後の未来からタイムマシンに乗ってやってきたという青年が現れ、「私」は、彼のタイムマシンで昨日に戻り、壊れる前のリモコンを持ってくることを思いつく」というものです。舞台はほぼ「下鴨幽水荘」とその周辺に限られており、下鴨神社、鴨川デルタ、出町柳駅等実在する場所が登場します。

 

 

 写真は京阪電車並びに叡山電車の出町柳駅です。高野川をはさんでこの駅の反対側に鴨川デルタがあり、『四畳半神話大系』と同様、『四畳半タイムマシンブルース』も鴨川デルタでラストシーンを迎えます。そして以前にも書いたように、ここでも「不可能性」というテーマが、「私」のあこがれである明石さんの台詞によって語られます。

 

 『四畳半タイムマシンブルース』は夏目真悟監督により劇場アニメ化され、2022年9月30日に公開となりました。その主題歌がASIAN KUNG-FU GENERATION(以下アジカン)による「出町柳パラレルユニバース」です。アジカンは、1996年に横浜の関東学院大学の音楽サークル内で結成された4人組ロックバンドです。2003年にメジャーデビューし、現在まで10枚のアルバムと29枚のシングルを発表しています。

 

 「出町柳パラレルユニバース」の作詞・作曲は、アジカンのほとんどの作品を手掛けるヴォーカル兼ギターの後藤正文氏です。曲の前半は王道のアジカンサウンドと言えるストレートなロックなのですが、3分を越えたところで突然、後期Beatlesを彷彿とさせるサイケデリックなサウンドに変化します。このことについて後藤正文氏は、ラジオ番組のインタビューで「京都という街のサイケなイメージを音にした」という意味のことをおっしゃっていました。京都というと「雅、伝統、優美」といった良いイメージや「いけず、排他的、本音を言わない」等の悪いイメージを抱く人は多いと思いますが、「サイケ」という表現は初めて聞き少し驚きました。けれど、私個人的には端的に京都を表していると思いますし、嬉しくも感じました。能、狂言、歌舞伎、華道、茶道、日本画といった古典的文化が盛んなだけでなく、映画、ゲーム、アニメ、フォークといった新しいカルチャーを世界に向けて発信し、何といっても、綾辻行人先生や森見登美彦先生といった平成~令和時代の文豪を生み出し、新旧混じり合って化学反応を起こす京都は「サイケ」な街であると思います。