『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』岡崎琢磨 | 京都市某区深泥丘界隈

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綾辻行人原作『深泥丘奇談』の舞台、京都市某区深泥丘界隈を紹介します。内容は筆者個人の恣意的な感想に過ぎず、原作者や出版社とは関係ありません。

 岡崎琢磨先生は、福岡県太宰府市出身で、京都大学法学部卒業後執筆した『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』が第10回『このミステリーがすごい!』大賞の最終選考に残ります。大賞受賞には至らなかったものの、「隠し玉」として出版されたところ、ベストセラーとなり、2013年第1回京都本大賞を受賞しました。

 

 京都の中京区、富小路通二条上ル(交差点から北に入ることを京都では「上ル」と言います)にひっそりと店を構える珈琲店「タレーラン」が舞台です。実際にはこの場所にモデルとなる喫茶店はありませんが、第三章「盤上チェイス」で、この立地条件が謎解きに関係するので、あえて実在の住所に設定したのでしょう。物語の語り手である主人公「アオヤマ」は、偶然入ったこの店で、長年追い求めた理想の珈琲と、魅惑的な女性バリスタ「切間美星」と出会います。彼女は大変頭脳明晰であり、店に持ち込まれる日常の謎を、ミルでコーヒー豆を挽きながら解明していきます。殺人事件は起こらず、装画もshirakaba先生による可愛いイラストで、ライトミステリのカテゴリに含まれると思うのですが、クライマックスでは新本格を彷彿とさせる部分もあり、ぐいぐい引き込まれて行きます。

 

 

 

 

 写真は京都市某区、白川通今出川の交差点にある「銀閣寺道」バス停です。アオヤマは『人形館の殺人』のところでもご紹介した「北白川」に住んでいるという設定で、タレーランに行くときは銀閣寺道からバスに乗って行くようです。北白川と言えば、有栖川有栖先生の「作家アリスシリーズ」に登場する火村英生准教授が下宿している場所としてご存じの方も多いでしょう。岡崎先生が京都大学在学中に下宿していたため、アオヤマの住所を北白川に設定したと思いきや、岡崎先生は『江神二郎の洞察』でご紹介した「高野」という場所に住んでおられたようです。

 

 写真の奥に石垣が写っていますが、これは琵琶湖疎水の土手です。疎水に沿って右方向に進むと、このブログでも何度もご紹介している「哲学の道」につながります。左方向に進むと北白川を抜けて高野方面に到ります。ミステリの聖地が琵琶湖疎水に沿って多数存在していることになります。もちろんこれは偶然ではなく、疎水べりのミステリアスな雰囲気が舞台設定に効果的なためなのでしょう。住宅地を流れているにも関わらず、木陰が多く薄暗く、水の流れもあってその周辺にのみ異質な空気が漂っています。機会があれば実際に歩いてその雰囲気を味わっていただければと思います。