『志那そば館の謎』北森鴻 | 京都市某区深泥丘界隈

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綾辻行人原作『深泥丘奇談』の舞台、京都市某区深泥丘界隈を紹介します。内容は筆者個人の恣意的な感想に過ぎず、原作者や出版社とは関係ありません。

 北森鴻先生は、1961年山口県下関市生まれで、1984年駒澤大学文学部卒業後、1995年『狂乱廿四孝』で鮎川哲也賞受賞し作家デビュー。 1999年『花の下にて春死なむ』で第52回日本推理作家協会賞・短編および連作短編集部門受賞されましたが、2010年48歳の若さで死去されました。大学では歴史学を専攻されており、骨董や民俗学、歴史などの分野を得意とされていました。

 

 『志那そば館の謎』は、嵐山・大悲閣千光寺の寺男として働いている元怪盗の有馬次郎が、裏社会で培った技能を駆使し、洞察力に優れた住職や、みやこ新聞の記者・折原けいの助けを得て事件を解決する「裏京都ミステリー」シリーズの第一作です。6つの短編が収載されていますが、最後の「居酒屋 十兵衛」は、「阪急上桂駅近くの児童公園で起きた殺人事件の容疑者には、犯行時刻に一乗寺下り松町の居酒屋にいたというアリバイがある」お話です。阪急上桂駅は京都の西のはずれにあります。一乗寺下り松町は実在の地名で、京都の東のはずれ深泥丘界隈にあります。移動には1時間程度かかり、一見犯行は不可能に思われます。

 

 「一乗寺下り松」という名前は、ひょっとすると時代小説や時代劇が好きな方はご存じかもしれませんね。宮本武蔵が一人で多数の吉岡一門を打ち破った伝説で知られています。吉川英治の『宮本武蔵』や、映画『宮本武蔵 一乗寺の決斗』、大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』にも登場します。

 

 

 上の写真は「一乗寺下り松」です。武蔵の時代から数えると4代目の松だそうです。

 

 「裏京都ミステリー」シリーズは、嵐山に実在する大悲閣千光寺が舞台となり、元怪盗が主人公というユニークな設定で、ユーモア溢れる楽しい作品です。しかし、本作と『ぶぶ漬け伝説の謎』の二作しか発表されていません。北森鴻先生には長生きしていただき、続編を書いていただきたかったと残念でなりません。

 

 「京都市某区深泥丘界隈ミステリ散歩」は、次回より「京都市某区深泥丘界隈文学散歩」とタイトルを変え、発展的に終了させていただきます。今後はミステリのみならず、古典文学、純文学、ラノベ等ジャンルにこだわらず深泥丘界隈が舞台になった作品をご紹介してまいります。引き続きよろしくお願いいたします。