第千二百七十一段 朝熊山金剛證寺の庭の池の光景
昔、男ありけり。今も男あり。
その男令和元年八月の或る日
今をさかのぼること三十数年前
旅行にて伊勢の国は朝熊山金剛證寺に
縁ありて泊りけり。
その夕刻、一人 庭にある池を見遣りたる
光景が突如として甦り
歌に詠みて曰く
水面より 飛び跳ね出でし 大鯉は
勢ひあまり 蓮の葉に載る
と詠み 大鯉も暇なれば、其の光景を見続けたる
其の男もまさに暇に任せての暇つぶしにて
懐かしき思ひ出に暫しひたりけり。
而してその後 其の大鯉の運命や如何に
なりたるかを申し上げれば
跳び跳ねあがき、やうやうにして
池の水中へと無事に戻りたるとぞ記憶にあり。
何故、係る出来事が突如として甦りたるかは
与り知らざるなり。