第千百六十七段 ペン先をインクに浸し書く
昔、男ありけり。今も男あり。
その男平成三十一年四月
六十六歳の手習にペン習字教室へ通ひ始めけり。
その歳にして片仮名の「ヒ」「ヲ」の
書き順の過ちの指摘を受けけり。
即ち「ヒ」は「乚」が一画にて「一」は斜め右上からではなく
左から右へ横に書くのが正しく
「ヲ」に関しては「フ」の後に「一」ではなく
「二」の後に「ノ」が正しいとの指導を受けけり。
受講の折にはその男の愛用の五種類のペンを持参し
稽古に励み歌を
ペン先を インクにひたし 書きゆかば
明治大正の 作家の気分
と詠み パソコンはおろかワープロも無き
時代の作家といへば、手書きで書くより
外にすべはなく ペン先にあらねど
インクに気分を浸しけり。