第千四十五段 神の御坂の「月川」にて防人の歌碑を目にして
昔、男ありけり。今も男あり。
その男、平成三十年の晩秋の或る日
信州は昼神温泉郷の奥にある
星空と花桃の里 「野熊の庄 月川」へと行き
そこにある万葉集の防人の歌の歌碑の
埴科郡神人部子忍男の歌の
「ちはやぶる 神の御坂に幣捧げ
齋ふいのちは 母父のがため」
を目にし 入浴後、歌を
いにしへの 東山道の 難所なる
神の御坂を 礼して湯浴む
と詠み
信州より遠く九州まで国土防衛のため
行かねばならなかった若者の心情を
慮り涙を流しぬ。
なほこの信州と美濃の国境の峠は
古代の幹線道路の東山道の中でも
最も難所の一つなれば、多くの
旅人の行き交ふ姿も湯の中なれば思ひ浮かびけり。