第九百七十六段 我が家の下僕の男
昔、男ありけり。今も男あり。
その男、平成三十年の晩夏
祖父より聞きたる昔話を思ひ出しけり。
そは 今はむかし 江戸時代こと
三河の国は安城にて庄屋を営み多くの
使用人ありき。
或る日 その中の一人の若者
このままではうだつは上がらぬと思ひ
暇を願ひ出て 出世を夢見て江戸は
上野の寛永寺の僧侶となり
そこ後、大出世を果たし故郷の安城に
錦を飾るためその男の祖先を訪ねて
土産を置きたる事を
思ひ出し歌を
わが祖の 家僕の男 寛永寺の
法主と出世し 駕籠に乗り来ぬ
と詠みけり。因みにその出世したる
家僕の男の持ちて来たるは
かの上野の寛永寺の畳の縁の一部と伝はりぬ。
真相は定かならねども代々伝はる話しなり。