新編・伊勢物語 第九百五段 兄の今際 星原二郎第九百五段 兄の今際 昔、男ありけり。今も男あり。 その男、兄弟(はらから)四人あり。一人を生後数日に喪ひ、 四十歳の折に四十二歳の兄の今際(いまぎは)に立会ひけり。 立ち合ひて、歌を 兄嫁の 叫びに似たる 呼びかけに 応ふる声なく 兄逝きましぬ ちちのみの 父泣きゐるは 七十二歳の 今日の今まで 見ざりしものを と 詠み 深き喪失感に嘆きけり。合掌。