新編・伊勢物語 第六百一段 初鰹 星原二郎第六百一段 初鰹 昔、男ありけり。今も男あり。 その男、平成二十九年の初夏 通ひ馴れたる寿司屋へ昼餐に行き 黒板に「初鰹 熊野より入荷」に目を留め 注文し歌を 初鰹 熊野灘より 届きぬと 知れば迷はず たたきを注文(たの)む と詠み かって江戸の代にては高価なりしが 女房を質屋に入れても食ふ と言ひし 江戸っ子の見栄っ張りを【粋(いき)】と思ひつつも 値打ちにいただける今の代に生きる事の 幸ひを鰹だけに噛みしめけり。