第四百三段 三浦綾子のデビュー小説
昔、男ありけり。今も男ありけり。
その男、平成二十八年のある日 息子との会話の
弾みに叔母の話となりけり。叔母は昭和四十三年
三十路を前に幼子を遺し、内臓を患ひ死にたまひたり。
急死の数日前に見舞ひ、一冊の書籍を受け取りけり。
そが、朝日新聞の懸賞小説にて賞を獲りし三浦綾子氏の
デビュー小説「氷点」なり。
その事を思ひ出で、歌を
「氷点」は 若く逝きたる 叔母のただ
ひとつの形見と 息子に読ます
と 詠み その男当時、弱冠十六歳にて一気に読みしこと
懐かしく思ひけり。蛇足ながらその一冊にて彼女の
ファンとなり、全作を読破せしと覚ゆ。