第三百七十八段 飛騨の両面宿儺
昔、男ありけり。今も男ありけり。
その男、平成二十七年から二十八年にかけて、たびたび
飛騨の国は千光寺へと行きけり。千光寺は十二万体の
仏像を彫りたると伝はる円空上人ゆかりの寺にて
数多の円空仏が残され展示されゐたり。目的は最高傑作と
評価の高き両面宿儺像なり。両面宿儺とは古代の怪物にして
その地域の英雄なり。顔は三面あり、腕は四本といふ。
その男、考へるに大和朝廷に従はぬ縄文系の反乱軍の
領袖が形を変へ伝承されしと思ひ、歌を
円空の 両面宿儺に 魅せられて
四度吾は来ぬ 飛騨の古寺
円空の 両面宿儺の おん前に
拝みての後も しばし離れず
物事に 表裏一体の ことわりの
あるを知りつつ 真向ひゐるも
と詠み 対峙すること数刻に及びけり。