第三百五十二段 白河の関
昔、男ありけり。今も男ありけり。
その男、関東より陸奥への入り口にして
歌枕の地 白河の関へと行きけり。
行きて歌を
みちのくは 野分けも時雨も よからむと
思へど晴れを 願ひつつ行く
二年を 隔てて踏み入る みちのくは
白河の関 まづは訪ねむ
訪ふ人は 吾のみならず 白河の
関の時雨に ゑみを交せる
もみぢ敷く 石階段を 登り来て
旧跡に建つ 御社に詣づ
と 詠み 能因法師の名歌「都をば 霞とともに
たちしかど 秋風の吹く 白河の関」を幾度も
口に唱へけり。