第三百三十四段 続・沓掛城址
昔、男ありけり。今も男ありけり。
その男、沓掛城址公園へと行き、
蜂と蟷螂の死闘を見て、歌を
逃れむと 羽根はばたかせ 抗へど
蟷螂蜂を 押さへて離さず
まづ羽根を 捥げば飛び得ず ゆつくりと
生きゐるままに 蜂を食ひ初む
三角の 頭を振りて 見得を切り
ばりばりむしゃむしゃ 蜂食ふ蟷螂
蟷螂も また鳥どもの 餌とならむ
食物連鎖に ゆきつくは人
沓掛の 城址にして 桜木の
幹の出来事 秋の午後なる
と、詠みしかど、観戦料を払はず去りけり。