第二百九十六段 続・仙人、棲む山
昔、男ありけり。 今も男ありけり。
その男、信州の越後の境にありて
秘境といはれる秋山郷へと行きけり。
その地の鳥甲山は仙人の棲む山と聞き及びければ
歌を
時をりは 山より雲に 降り来て
里の童と 遊ぶ仙人
山裾を 流るる清き 中津川
岩魚棲みゐて 仙人が釣る
娘子の 脛見て落ちし 仙人も
ゐしかと露天の いで湯に思ふ
と 詠み 麓の河原に温泉を掘り
露天風呂より山の上の雲を仰ぎけり。