第二百九十三段 イムジン河
昔、男ありけり。 今も男ありけり。
その男、平成二十八年の秋、朝鮮半島の南北の境を
流るるイムジン河を見むと行きけり。
イムジン河は昭和四十年代にフォークグループの
「ザ・フォーク・クルセダース」の発売禁止の
レコード盤「イムジン河」に歌はれし南北分断の
象徴の河なれば、一目なりとも見たかりきと
行き行きて、歌を
滔滔と イムジン河は 流れつつ
自由の橋を 渡る者なし
帰らざる 橋を渡りて 戻り来ぬ
ひとを待ちつつ すでに六十年
南北に ひとつの民を 分かちたる
北緯三十八度 線上にたつ
と、詠みて「イムジン河」の歌詞を口遊みけり。