第二百六十七段 ふるさとの奥津城
むかし、男ありけり。今も男ありけり。
その男、ふるさとは豊川市にて、
ご先祖様の墓に、折々参りけり。
盂蘭盆会を前に参りて
歌を
ふるさとの この野辺変らず 幼き日
祖父母と参りし 漫珠沙華かな
ふるさとを 離れて月々 詣で得ず
心に詫びつつ 手を合すかな
ふるさとを 離れてはやも 三十年近く
ここに還らむ 日は遠からじ
と詠み、ご先祖様に感謝を申しつつ
「ここに還らむ」日はいつのことかと
思ひめぐらしけり。