第二百六十三段 更に能煩野を
昔、男ありけり。今も男ありけり。
その男、古代の悲劇の英雄の倭建にこころひかれ
所縁の地のひとつ、能煩野へと行きけり。
行きて歌を
御共の 七拳脛の なげかひの
声聞こゆがに 寂もる社
御刀の 草那芸剣 持たざれば
伊服岐に傷負ふ 御身いたまし
奥津城の 結界寂もり 時をりに
うぐひす鳴くを ひとり聞きつつ
白鳥と 化して飛び行き 時経れど
みことのみたま 今もさすらふ
と 詠みて 今も時空を彷徨ひ続けると思へてならぬ
倭建の命の魂をお慰め申しけり。