第二百二十二段 蜘蛛の相撲
昔、男ありけり。 今も男あり。
その男、房総の漁師の間の遊びの「蜘蛛の相撲」に
興味を持ち、房総場所へと観戦に行き、見しさまを歌に
時化となり 漁に出られぬ 漁師らは
酒を片手に 船小屋へ行く
日焼けせし 漁師数人 輪となりて
小さき蜘蛛の 相撲に興ず
房総の 新緑燃ゆる くさむらに
豆粒ほどの 蜘蛛を捕へて
マッチ箱の 狭き土俵に 喧嘩蜘蛛
本能に従ひ 闘ふ二匹
おそらくは 雌をめぐりて 雄同志
相争ふを 見てはじめけむ
房総の 漁師仲間に 伝はりて
浜の遊びは 素朴なるかな
と 詠み 拍手を送りけり。