第二百十九段 図書館
昔、男ありけり。 今も男あり。
その男、図書館へと足しげく通ひければ
歌に
調べもの せむと来たりて 図書館の
この静謐を 吾は好める
黙々と 机に向ひ 学びゐる
若きは受験 控へゐるらむ
あれこれと 書架より取りて 繰りゆけば
栞いできて メモ書のあり
目にとまる 知立の昔の 写真集
懐かしく見入り 時を忘れつ
高価なる 美術全集も 気兼ねなく
図書館なれば 繰りて楽しむ
よき書に 出会ふ喜び なにものに
代へがたければ 生きざらめやも
万巻の 書を読まむと 欲すれど
衰へしるき 吾が目悲しも
帰るさの 珈琲の店に 立ち寄りて
飲みつつ読むが 愉しきひと時
と 詠み すっかり冷めた珈琲を飲み干しけり。