第百十四段 獅子岩
むかし、男ありけり。今も男あり。
その男、平成二十八年の早春
ユネスコ世界遺産に先年
登録されたる南紀の熊野へと行きけり。
行きて、歌を
み熊野の み社まもる 獅子岩は
海の向かひて 千歳吼えつぐ
と詠み、熊野三山を海からの外敵からの守衛の
役割の狛犬ならぬ狛獅子と思ひけり。
しかれども、狛なれば左右一対の阿吽と思ひしかど
一頭のみとは何故との疑念をいだきけり。
しばし思案ののち
獅子なれば強きが故に一頭にても役割を十分に
果たし得ると思ひけり。